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新しいシャンソンを新しい言葉に乗せて

   シャンソンの訳詞のつれづれに                      ~ 松峰綾音のオフィシャルブログへようこそ ~

* 「愛の約束 」 その二 訳詞への思い<2>

エッフェル塔  
   昨日の<「愛の約束」 ~ミュージカル「十戒」から~ その一 >
に続いて今日はその二。
 第二回目に早速入りたいと思います。


       「 愛の約束 」  ~ ミュージカル「十戒」から ~ その二 
                                   訳詞への思い<2>


  フランスのミュージカル そして Pascal Obispo(パスカル・オビスポ) 
  「ミュージカル十戒」は台詞を全く使わない30曲以上の劇中歌だけで進んでゆくミュージカルだ。 
 ミュージカルというよりオペラを聴く感覚に近い気がしたが、歌詞のフランス語が完璧には理解できなくても、言葉がダイレクトに体に入ってくる気がして、曲そのものが雄弁に言葉を語っていると感じた。

 私見だが、基本的に、フランスの演劇は言葉先行型なのだという気がする。もっと極言するなら、フランスの芸術はと言い換えても良いかもしれない。

 ミュージカルというものは、言葉、歌、音楽、舞踊、動き、舞台演出などの様々な要素が融合し合ってそれぞれに大きな力を発揮するものであるから、そう考えると、本質的には、ミュージカルはあまりフランスの得意とするところではないのかもしれない。
 大体、アメリカなら、まず、モーゼの十戒という地味すぎる物語を、しかも出来るだけ聖書に忠実にというコンセプトで、ミュージカルに選ばない気がするし、百歩譲ったとして、ロック・ミュージカル「ジーザスクライスト・スーパースター」のイエスとユダのような大胆なヒーローに、モーゼは変身するのではないだろうか?

 益々独断が過ぎて顰蹙(ひんしゅく)をかうかもしれないが、でも、実際、このミュージカルの音楽監督である Pascal Obispo(パスカル・オビスポ)は来日の際のインタビューの中で、演劇は安っぽいパフォーマンスであってはならない、人が生きるための哲学が必要で、社会に伝えるメッセージがまずはっきりとあるべきだ、というような事を語り、目指すところはいわゆるブロードウエイのショービジネスではないと、信念に満ちた熱い眼差しで語っていたから、私の偏見もあながち捨てたものでもないのではと思っている。

 劇中の、モーゼと義兄弟のエジプト王子ラムセスとの、愛憎相半ばする心理的葛藤の描写は実に妙味があるし、そして後半部に描かれる、救済されたヘブライ人達が怠惰ゆえにモーゼの純粋な思いを裏切る場面などからも、人間の心の脆弱さが巧みに歌に乗って伝わってくる。
 物語がこのように胸に沁み入ってくるところがいかにもフランス的であり、このミュージカルの真骨頂だと私は感じた。

 フランス人はアメリカのミュージカルをけばけばしく底が浅いと批判し、アメリカ人は、フランスのミュージカルを退屈で垢ぬけないと皮肉る。
 究極的には、では、そもそもミュージカルとは何なのかとか、ミュージカルにおける芸術性と娯楽性というような定義の問題にも関わってくるのだろうけれど、たとえ定義が定まったとしても、個々の作品としての優劣とはまた別のことであろうし、結局、どちらが正しいとも言えず、好みの問題に落ち着くのかもしれない。
 そして、この対極の価値観はミュージカルなどの演劇だけに留まらず、音楽全般においてもあてはまる問題のような気もする。

 訳詞に携わるようになって、シャンソンやフレンチポップスに触れていても、先程述べたように、やはりこれも言葉先行型の範疇にある気がしてならないし、オビスポの言葉から感じるようなフランス人としての誇りやこだわりが、良くも悪くも、ジャズやロックなどのアメリカ的音楽と一線を画す大きな要素となっていることを強く感じる。


 ここで、「ミュージカル十戒」の音楽プロデューサーであり、30曲余りの劇中歌の全てを作曲しているパスカル・オビスポについて少し紹介してみたい。

     パスカル・オビスポ    ミュージカル十戒 CD
  パスカル・オビスポ(プログラムより)   ミュージカル十戒 CDアルバム

 彼は今年46歳、フランスを代表するシンガーソングライターだが、ライブを初めとする自らの精力的な音楽活動に加えて、他アーティストとの共同制作や楽曲提供、音楽プロデュース、エイズ撲滅のチャリティーツアー、子供たちの世代に環境問題を訴えるためのコンサート活動など、常に新たな試みでフランスの音楽界をリードしている。
 彼の活動の根底には、より良い社会の実現のために音楽が何をなし得るかというテーマが常にあり続けているように思われる。
 エイズ撲滅キャンペーンソングとして作曲した『sa raison d’êrtre(サ・レゾン・デートル)(存在の理由)』は42名の第一線のアーティスト仲間を一堂に会し共に歌ってビッグヒットとなり、エイズ基金に貢献したし、このような社会貢献に寄与するための卓越した企画力と行動力、そして、そのような彼の思いが率直に伝わってくるメッセージ性の強い音楽の中に、彼の独自な個性が感じられる。

 精悍な風貌で、キラキラとした眼差しで思いを込めて一言一言を噛みしめるように語る話しぶりが印象的だ。・・・勿論知り合いというわけではないけれど、コンサートライブや様々な活動におけるインタビューなどに映像を通してかなり親しんでいるので、ひいき目な評価が加わり、私の中では好感度は高い。

 「ミュージカル十戒」のテーマ曲の「l’envie d’aimer」は、こうした彼が生み出した、彼らしい代表曲の一つといえるだろう。


 今日もお疲れ様でした。ここまでお読み下さって感謝します。
 長い前置きを終えて、次の最終回はいよいよ本題「愛の約束」について、ご紹介したいと思います。
 ではまた!


 

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