
今、軽井沢に来ています。
旅の気分って良いものですね。
月並みな言葉ですけど、日常を離れ、束の間、別の場所に身を置くのは、日々の生活や自分を見直し、発見する新鮮なきっかけになるような気がします。
これまで何度も足を運んだお気に入りの所ってありますか?
私にとって軽井沢はいくつかあるそんな場所の一つです。
空気の味、光の柔らかさ、樹の匂いがとても素敵で・・・どこかのポスターのキャッチコピーみたいですが、・・・・木々に囲まれた特有のしっとりとした冷気が体の奥に染み入ってきて、心身にいつの間にか重く澱んでいたものをすっきりと浄化してくれるような気がしてきます。
軽井沢は人気の観光地ですので、見どころはもちろんたくさんあるのですが、どこに出掛けるというのではなくて、私は、何より軽井沢の落葉松の風景が良いなと思ってしまいます。
落葉松林の中に入って、いつまでも樹の気配のようなものを感じているのが好きですし、四季折々、落葉松の表情に変化があるのも興味深いです。
今日は、少しマニアックな観光ガイドを。
旧軽井沢 白秋の落葉松 文学散歩
絵葉書に出てくる軽井沢らしい風景ってこういう感じでしょうか?
軽井沢の夏、昼間は30℃近くになる時もあるのですが、この数日は雨模様、20℃を切り、カーディガンなど着て歩いています。
抜けるような澄んだ空に落葉松は映えますが、こんな雨の日の霧に霞んだ情景も陰影を感じてまたなかなかの雰囲気があるかと。
真っ直ぐにそびえ立つ落葉松の間を細い道がどこまでも続いています。
旧軽井沢、・・・・「旧」などとネイミングされていますが、本当は「正」軽井沢なのでしょうね。昔ながらの重厚な趣のある別荘地に続く、いつも霧の中に眠るような端正な風情はやはり格別です。
落葉松の道をずっと歩いてゆくと、風景に溶け込んで万平ホテルが現れます。
1894年創業、明治に出現したこのモダンな西洋建築はどんなにか当時の人の心を魅了したことかと想像されますが、100年有余の月日を華やかに色々な物語で飾ってきたことでしょう。今も大人気のレトロな洋館で、やはりこの日も大勢の人で賑わっていました。
からまつの林を過ぎて、
からまつをしみじみと見き。
からまつはさびしかりけり。
たびゆくはさびしかりけり。
北原白秋の『落葉松』です。
八連まである長い詩なのですが。
(全編ゆっくりお読みいただける方はこちらをクリックしてください。)
白秋が詩集『水墨集』で昭和10年に発表した詩ですが、余りにも有名で、落葉松林を歩く時は誰もが皆、この詩の一節を口ずさむ詩人になってしまいそうです。
特に五連の
からまつの林を過ぎて、
ゆゑしらず歩みひそめつ。
からまつはさびしかりけり。
からまつとささやきにけり。
辺りに来ると、もうすっかり物悲しく幽玄な気分に引きこまれますよね。
ところで、『落葉松』という合唱曲があるのですが、ご存知でしたか?
白秋の詩をそのまま歌詞として作曲したものもありますが、現在よく耳にするのは、野上彰作詞・小林秀雄作曲の『落葉松』ではないでしょうか。
こちらは八行の詩ですので、全編載せてみます。
『落葉松』
落葉松の 秋の雨に
わたしの 手が濡れる
落葉松の 夜の雨に
わたしの 心が濡れる
落葉松の 陽のある雨に
わたしの 思い出が濡れる
落葉松の 小鳥の雨に
わたしの 乾いた眼が濡れる
女声合唱、混声合唱、ピアノ曲、それぞれに編曲されていますが、シンプルな詩が、少しメランコリックで美しい旋律に乗って繰り返されてゆき、落葉松の情景と共に心に沁み入ってくる気がします。
嘗て教鞭を執っていた高校の合唱コンクールの時に歌われた『落葉松』。
瑞々しい感性がほとばしるような美しい歌声が、色々な思い出と共に今も鮮やかに懐かしく胸に蘇ってきます。
私も、自分でもどうしても歌ってみたくなって、随分前ですが、シャンソン風にアレンジして歌ったことがありました。
(こちらは混声合唱ですがクリックするとyoutubeにつながります。)
旧軽井沢 犀星の足跡 文学散歩
万平ホテルを出て、また落葉松の道を、さわさわとした梢の音を聞きながらのんびり歩いていると、すぐ近くに、今は記念館になっている犀星の旧宅に行きあたります。
こんなところに・・・と思うほど閑静な佇まい。良く手入れされている苔庭が目に鮮やかに飛び込んできます。入館料無料、GOODですよね。
室生犀星は金沢の生まれで、犀星の名も故郷金沢を流れる犀
川から名付けたものですが、上京して詩人として成功した後、今度は小説家として転身し、作品を多く残すことになります。
この頃(大正末)から頻繁に軽井沢を訪れ、昭和6年に建てられ、以後長きに渡って夏を過ごすことになった家が、この旧宅なのです。
軽井沢ゆかりの文学者は、芥川龍之介、堀辰雄、立原道造、川端康成、志賀直哉、有島武郎、・・・枚挙にいとまなく、それぞれの文学者の日記や随筆など読むにつけ、彼らの夏の家は文学サロンの香りが漂っていたのだろうと、良き時代に思いを馳せてしまいます。
旧軽井沢銀座に行きつき、更に旧道を旧碓氷峠に向かうと矢ヶ崎川にかかる二手橋を渡ります。川沿いを少し行くと犀星の文学碑が。
この辺も銀座の喧騒が嘘のような、文学散歩に絶好の静寂を噛みしめることのできる場所です。
文学碑の前には道祖神かしらと思ってしまうくらい自然に、二体の傭人(ようじん)があります。片方には犀星の妻の、そしてもう片方には犀星の遺骨の一部が収められているそうです。
大好きな軽井沢に・・という犀星の遺志だったのでしょうね。
ご紹介したい所、事、まだまだ沢山あるのですが、長くなりますので、とりあえずここで休憩して、また次回に続けたいと思います。
旅の気分って良いものですね。
月並みな言葉ですけど、日常を離れ、束の間、別の場所に身を置くのは、日々の生活や自分を見直し、発見する新鮮なきっかけになるような気がします。
これまで何度も足を運んだお気に入りの所ってありますか?
私にとって軽井沢はいくつかあるそんな場所の一つです。
空気の味、光の柔らかさ、樹の匂いがとても素敵で・・・どこかのポスターのキャッチコピーみたいですが、・・・・木々に囲まれた特有のしっとりとした冷気が体の奥に染み入ってきて、心身にいつの間にか重く澱んでいたものをすっきりと浄化してくれるような気がしてきます。
軽井沢は人気の観光地ですので、見どころはもちろんたくさんあるのですが、どこに出掛けるというのではなくて、私は、何より軽井沢の落葉松の風景が良いなと思ってしまいます。
落葉松林の中に入って、いつまでも樹の気配のようなものを感じているのが好きですし、四季折々、落葉松の表情に変化があるのも興味深いです。
今日は、少しマニアックな観光ガイドを。
旧軽井沢 白秋の落葉松 文学散歩
絵葉書に出てくる軽井沢らしい風景ってこういう感じでしょうか?


軽井沢の夏、昼間は30℃近くになる時もあるのですが、この数日は雨模様、20℃を切り、カーディガンなど着て歩いています。
抜けるような澄んだ空に落葉松は映えますが、こんな雨の日の霧に霞んだ情景も陰影を感じてまたなかなかの雰囲気があるかと。
真っ直ぐにそびえ立つ落葉松の間を細い道がどこまでも続いています。
旧軽井沢、・・・・「旧」などとネイミングされていますが、本当は「正」軽井沢なのでしょうね。昔ながらの重厚な趣のある別荘地に続く、いつも霧の中に眠るような端正な風情はやはり格別です。
落葉松の道をずっと歩いてゆくと、風景に溶け込んで万平ホテルが現れます。


1894年創業、明治に出現したこのモダンな西洋建築はどんなにか当時の人の心を魅了したことかと想像されますが、100年有余の月日を華やかに色々な物語で飾ってきたことでしょう。今も大人気のレトロな洋館で、やはりこの日も大勢の人で賑わっていました。
からまつの林を過ぎて、
からまつをしみじみと見き。
からまつはさびしかりけり。
たびゆくはさびしかりけり。
北原白秋の『落葉松』です。
八連まである長い詩なのですが。
(全編ゆっくりお読みいただける方はこちらをクリックしてください。)
白秋が詩集『水墨集』で昭和10年に発表した詩ですが、余りにも有名で、落葉松林を歩く時は誰もが皆、この詩の一節を口ずさむ詩人になってしまいそうです。
特に五連の
からまつの林を過ぎて、
ゆゑしらず歩みひそめつ。
からまつはさびしかりけり。
からまつとささやきにけり。
辺りに来ると、もうすっかり物悲しく幽玄な気分に引きこまれますよね。
ところで、『落葉松』という合唱曲があるのですが、ご存知でしたか?
白秋の詩をそのまま歌詞として作曲したものもありますが、現在よく耳にするのは、野上彰作詞・小林秀雄作曲の『落葉松』ではないでしょうか。
こちらは八行の詩ですので、全編載せてみます。
『落葉松』
落葉松の 秋の雨に
わたしの 手が濡れる
落葉松の 夜の雨に
わたしの 心が濡れる
落葉松の 陽のある雨に
わたしの 思い出が濡れる
落葉松の 小鳥の雨に
わたしの 乾いた眼が濡れる
女声合唱、混声合唱、ピアノ曲、それぞれに編曲されていますが、シンプルな詩が、少しメランコリックで美しい旋律に乗って繰り返されてゆき、落葉松の情景と共に心に沁み入ってくる気がします。
嘗て教鞭を執っていた高校の合唱コンクールの時に歌われた『落葉松』。
瑞々しい感性がほとばしるような美しい歌声が、色々な思い出と共に今も鮮やかに懐かしく胸に蘇ってきます。
私も、自分でもどうしても歌ってみたくなって、随分前ですが、シャンソン風にアレンジして歌ったことがありました。
(こちらは混声合唱ですがクリックするとyoutubeにつながります。)
旧軽井沢 犀星の足跡 文学散歩

万平ホテルを出て、また落葉松の道を、さわさわとした梢の音を聞きながらのんびり歩いていると、すぐ近くに、今は記念館になっている犀星の旧宅に行きあたります。
こんなところに・・・と思うほど閑静な佇まい。良く手入れされている苔庭が目に鮮やかに飛び込んできます。入館料無料、GOODですよね。
室生犀星は金沢の生まれで、犀星の名も故郷金沢を流れる犀

この頃(大正末)から頻繁に軽井沢を訪れ、昭和6年に建てられ、以後長きに渡って夏を過ごすことになった家が、この旧宅なのです。
軽井沢ゆかりの文学者は、芥川龍之介、堀辰雄、立原道造、川端康成、志賀直哉、有島武郎、・・・枚挙にいとまなく、それぞれの文学者の日記や随筆など読むにつけ、彼らの夏の家は文学サロンの香りが漂っていたのだろうと、良き時代に思いを馳せてしまいます。
旧軽井沢銀座に行きつき、更に旧道を旧碓氷峠に向かうと矢ヶ崎川にかかる二手橋を渡ります。川沿いを少し行くと犀星の文学碑が。
この辺も銀座の喧騒が嘘のような、文学散歩に絶好の静寂を噛みしめることのできる場所です。


文学碑の前には道祖神かしらと思ってしまうくらい自然に、二体の傭人(ようじん)があります。片方には犀星の妻の、そしてもう片方には犀星の遺骨の一部が収められているそうです。
大好きな軽井沢に・・という犀星の遺志だったのでしょうね。
ご紹介したい所、事、まだまだ沢山あるのですが、長くなりますので、とりあえずここで休憩して、また次回に続けたいと思います。


