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新しいシャンソンを新しい言葉に乗せて

   シャンソンの訳詞のつれづれに                      ~ 松峰綾音のオフィシャルブログへようこそ ~

ノワイエの余韻

 二日間、行って参りました!

 先日の記事「ノワイエ ~溺れてゆく君~」の中でご紹介しました嶋本秀朗さん主催の<Je Te Veux(ジュ・トゥ・ヴ)~番外編~年忘れライヴバージョン>の公演です!

 とても楽しく興味深いステージでした。
 今日は前々からのお約束通り、このご報告を致しますね。

 まずは、嶋本さん、出演者の皆様、おめでとうございます。
 そしてお疲れ様でした。
 一昨日16日と昨日17日、両日とも満席で大盛況でしたね。

  初日 ~12月16日(金)

 会場は、浅草。
 浅草生まれ浅草育ちの嶋本さんのテリトリーです。
 
 スタートから話が脱線してしまいますが、浅草の街は、大好きだった祖母との思い出が沢山詰まっていて、私にはノスタルジックな特別な街なのです。
 随分前の記事で紹介させて頂きました、あの、毅然とした今も敬愛する我が祖母なのですが。・・・ご興味を持って下さる方は、後ほど
こちら ← をクリックしてゆっくりお読みください。・・・・
 祖母は浅草寺、仲見世通り辺りが好きで、幼かった私を連れてよくお参りに行きました。
 随分前のことになるわけですが、でも、駅周辺は下町の独特の趣が昔のままに残っていて、門前町の賑わいと共に、いつ来ても心が浮き立つ気がします。
 祖母は鰻が好物で、鰻は浅草が一番美味しいといつも言っていて、必ず帰りに鰻屋さんに入ったものでした。
 いつも行くお店は、中廊下を通って奥がお座敷風の個室に分かれていて、注文を聞いてからさばくので、子供にはとてつもなく長い時間待たされるのですが、これを祖母の傍らで聞き分け良く、ひたすらじっと待っていると、急に大人になった気がして、なぜかとても誇らしかったことを思い出します。
 あのお店は一体どこにあったのか、何というお店だったのか・・・割と最近、浅草に立ち寄った時、ぶらりと歩いてみたのですが、ついに見つけることができなかった幻のお店なのです。
 個人の嗜好は、幼いころの偶然の出会いや経験によって培われる部分も大きいのでしょうね。私の場合も「鰻」は今もとびきり美味しい食べ物で、「浅草の鰻」がその頂点にあり続けているようです。

ふと目を上げるとスカイツリー。

 祖母との映像には登場しない新しい浅草の風景。
 シャッターを切っていたら、小さな男の子がお祖母さんに手を引かれて楽しそうに側を通り過ぎてゆきました。 この坊やはスカイツリーをいつか懐かしい風景として思い出したりするのかしらとふと思いました。

 花やしきの看板。やはり浅草です。

    浅草のスカイツリー  花やしきの看板
 
 そして、国際通り沿いにあるライヴハウスHUB浅草店へ。
 開場前からお店の前に順番待ちの列が出来ていました。
 普段は主にジャズのライブを行っているそうで、店内はアメリカンテイストのそれっぽいインテリアでしたが、客席はステージを包むような居心地の良いしつらえです。落ち着いて耳を傾けられそうな、日々音楽が生きている場所の匂いがしていました。
 シャンソンのコンサートはきっとこのお店では珍しいのでしょうね。
 まして、ステージのすぐ側が客席ですし、歌とダンスのコラボレーションという今回のような公演はこれまでここでは皆無に近いのではと。
 いつも劇場で、かなり大がかりな演出でJe Te Veuxは行われていますので、ダンスも取り入れた、この場所での今回のライヴバージョンは、随分工夫なさったにちがいありません。

開演直前

 開演直前。
 暗くなって・・・生のコンサートのこの瞬間は、聴く方も出演するほうも心地よい緊張感に包まれる幸せな時です。

 写真を撮っている方も2、3人いらっしゃいましたが、すぐ側で歌う出演者に少し悪いかなという気もしましたし、ステージにすっかり心を奪われて、・・・・写真は・・・ありません。

 5人の歌手と、ダンサー、演奏者達によって和やかに華やかにコンサートは進んでゆきました。
 楽しんでもらうための、衣装、踊り、演劇的な要素、様々なショー的な工夫と、純粋に音楽として深いものを追求してゆくこと、歌のステージには多かれ少なかれ、その両方のバランスを考えることが必要になってくるのでしょうね。
 演出者のそんな苦慮の跡が忍ばれる、そしてそれに伴った様々な努力が光る、若々しいエネルギーに満ちた素敵なステージでした。

 花木さち子さんが歌われたノワイエ。
 息をするのも忘れるような、ピンと張った糸が一筋、曲を貫き通すような緊張感が圧巻で、曲の中の溺れてゆく女性の姿が透き通って白く見えてくる気がしました。深い水の中にどこまでも引き込まれてゆくような陶酔感の中で聴く側も気が遠くなってくる心地よさがありました。

 花木さん、素敵なノワイエをありがとうございました。

  二日目 ~12月17日(土)
 
 初日の余韻が残ったまま、いそいそと会場へ。
 羽子板市(はごいたいち)の日でした。
 17日から19日まで40万人の人出なのだそうです。
 ほんの少しだけ早く着いたので、羽子板市に立ち寄ろうかとふと思い、浅草寺に向かっていざ。

 4歳の頃だったか。
 父が、どのようないきさつからかわからないのですが、羽子板市でお土産に買ってきてくれたことが一度あったのです。
 綺麗なお姫様の押し絵の付いた当時なかなか豪華な羽子板でした。
 小さいころから本大好き、本の虫だった私への大人からのプレゼントは自然と本ばかりだったので、父がそういうお土産を買ってきてくれるのはとても珍しいことでした。
 その分、何だかとても嬉しく、実はつい最近まで、押入れの奥にしまってあったのです。(押し絵がくすんで取れてしまったこともあり、引っ越しを機会に処分してしまいましたが。)
 そんなことが、歩いていたら思い出されました。
 途中で親切そうなおばあちゃまに、羽子板市への道を尋ねたら案の定、とても丁寧に教えて下さり、「御苦労様。よくいらっしゃいました。楽しんできて下さいね。」ってにこにこしながら最後に一言。感激してしまいました。
 浅草はやはり良い街です。
 おばあちゃまは祖母に顔立ちが少し似ていて、昨日から何故か小さい頃を思い出すのが不思議な気がしました。
 でも、近づくにつれ人波が凄くて、この調子では開場に間に合わないと思い敢え無く途中で断念。
 昨日と同じライブハウスへ。

 花木さんとチェンジして劉玉瑛さんが出演。
 基本的に同じ曲目で進みましたが、出演者が若干変わるとやはりステージの雰囲気も違う味わいになってきてそれも大変興味深かったです。
 昨日はこうだったけれど、今日はこう、・・・当たり前ですが、その日によってニュアンスは違い・・・生の舞台はそれが怖さでもありますが、たまらない醍醐味ですよね。

 二日目のノワイエはあみさんの歌で。
 あみさんのノワイエの世界が美しく広がっていました。
 あみさんらしい甘く優しい響き。
 うっとりと耳を傾けていると、柔らかい幻想に心が溶けてゆき、静かにどこまでも浮遊してゆくような気がしました。
 この詩の不思議な悲しさや陶酔感がしみじみと心に伝わってきます。
 
 あみさん、素敵なノワイエをありがとうございました。


 お二人のノワイエ。
 それぞれに大切に歌って頂けて、詩が生きて喜んでいるようでした。

 声、感性、表現力、生き方、歌う人の全ての要素が歌には現れて、その人ならではの歌に変わってゆくのですね。
 勿論、私は、訳詞を作る時、思いを込めて、自分なりのイメージや世界感を膨らませてゆくわけですが、でも歌う側の中で、それがどの様に咀嚼され、どの様な色合いが加えられてゆくか、そういう未知の可能性に出会える時の幸せを強く感じて、とても幸せな二日間でした。

 浅草の二日間の楽しい余韻と、そしてお二人の歌われるノワイエの響きが今日もまだ胸に残っています。



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