

5月フランス。
先日、サルコジ大統領が決戦で負けて、オランド氏へと政権交代がなされました。
<元>大統領夫人と呼ばれることとなったカーラ・ブルーニですが、10年ほど前に発表された彼女の代表作の<quelqu’un m’a dit>(誰かが私に言った)という曲、ご存じですか?

・・・『風のうわさ』というタイトルで私も訳詞をして、これまでのコンサートでも何回か取り上げています。
大好きな曲、・・・この季節になると風に吹かれながら、ふと口ずさみたくなる密やかで美しい曲ですので、ブログでもいつかご紹介させていただきますね。
吹き抜ける五月の薫風・・と言いたいところですが、恐ろしい竜巻が起こったり、数日来、突然の雷とスコールのような激しい雨で、・・・最近の気象異変は何とも不気味です。被害に遭われた方々に心からお見舞いを申し上げます。
さて、前回から引き続いて、今日は、紋次郎物語 第四話をお届け致します。初めてお読み下さる方は、その一 その二 その三 と順を追って頂けるとわかり易いかと思います。
~その四 犬に負けるな ~
母猫の忘れ形見のように、我が家にやってきた子猫たち三匹の世話を今後どのようにするか、私たち家族の前に、早急に解決しなければいけないいくつかの問題が突きつけられました。
話し合った結果・・・というよりは、・・・実際には、一家の主として発言権、決定権、共に最優位にあった父の意向を酌んで・・・ということになりますが、・・・
次のような三カ条がまず決まりました。
第一条 三匹は、我が家の飼い猫と認め、基本的生活権を保障することとする。
第二条 但し、原則として外で飼うこととし、何かの必要が生じて家に入れる場合も、立ち入っても良い場所は縁側で外と直結している茶の間のみとする。
第三条 室内を汚してはならない。また、庭の植栽を損なったり、池の鯉に危害を与えるようなことがあれば、即刻、第一条は無効となる。
<衣食住>と言いますが、第一条により<食>は完全に保障され、まずは、めでたし!
<住>については、微妙にセーフかな?
<衣>については、最近流行りの<ペット用のワードロープ>などとは、無縁の生活で・・・・。
但し、二条、三条は、よく考えるとかなりな難題です。
もとはと言えば、母猫と不用意にもおかしな契りを結んでしまった私の全責任であるから、「課題は自己責任で解決せよ」との命が下り、でも、折角の可愛い子猫たちとの日々を存続させるためですから、何とか無に帰さないよう、知恵を絞ることになったのです。
三匹とも雄猫で、彼らにはようやくそれぞれ名前がつけられました。
「まだら」
母猫に一番姿形の似た日本猫、白地のベースに黒と茶の斑点が入っている三毛猫なのですが、ふっくらとした柔和な顔つきで性格も人懐こく温厚で、理解力も抜群に良い優等生タイプの猫です。弟が一瞬で命名した、ちょっといい加減な名前なのですが、でも何となくなごみ系の風貌にしっくりはまっていて誰も異存を唱えませんでした。
「猫吉」(ねこきち)
他の二匹に比べて、ひときわ体が小さく、全体的に華奢で、足が長くすらっと伸びた、おっとりした品の良い白猫です。唯一目の上、眉のところに、平安朝の御公家さんそっくりな黒い八の字眉のような模様が入っています。
これも弟の命名。とにかくひらめきが良く、ご託宣のように瞬時に告げるので、皆、考える暇もなく妙に納得してしまうのです。
彼はこの寡黙な猫が殊の外お気に入りで、随分可愛がっていました。
「紋次郎」(もんじろう)
ペルシャ猫系の血筋が混ざっていそうな長毛種の猫で、もわっと広がった綿みたいな毛並みの中から少しブラウンがかった大きな目が覗いていて、他の猫とはタイプの違うエキゾチックな風貌の猫です。性格は極めて野良猫的。母親とも兄弟とも似ていなくて、変に敏捷でとんがっている異端児です。
弟に先を越されないように、何とか私が・・・と間髪を入れずに発言したら、どこかで聞いたような月並みな発想になってしまったようです。後から考えると、カイザーとか、ルパンとか、横文字でも充分良かったわけですが。
でもこれも一声で採用となり、あまりにも早すぎる三匹の命名式でした。
さて、こうして名付けられた三匹が我が家の住人・・・住猫・・・でいられるためのクリアすべき課題なのですが。
母猫とのコミュニケーションですっかり自分自身の潜在能力に開眼してしまった私は、俄然猫たちの躾に使命感を燃やしていました。
生きとし生けるものには心と知性があるはずだから、それに届くよう誠意を尽くして対話することだという信念で・・・・。
<鉄は熱いうちに打て>
<動物の躾は飴と鞭>
<虎穴に入らずんば虎児を得ず 猫と対話するには猫になりきること>
<反復あるのみ 相手が根負けして受け入れざる得なくなるまでひたすら辛抱強く繰り返すこと・・・・何度でも 何度でも 出来るまで>
<決して感情的にならず一貫した方針を崩さないこと その時の気分で許したり怒ったりしないこと 駄目なことは槍が降っても絶対駄目 >
<猫であることの誇りと自信を尊重すること 猫なんだからできると相手が信じるまで >
どのようにしてこれを実行したか、色々ありすぎて具体的に書けませんし、また言えば絶対に皆様・・・引いてしまわれるでしょうから秘密にします。
が、語り尽くせぬ苦労の末、彼等は以下のような信じ難き賢猫へと変貌を遂げたのでした。
<茶の間以外には決して一歩たりとも足を踏み入れない>
<外から茶の間に入るときは汚れた足を雑巾で拭く>・・・・この躾は結構大変でしたが、ついには縁側に置いた雑巾の上で足踏みする三匹の姿を見ることとなりました・・・・これはまた後日詳しくご説明しましょう。
<どんなにご馳走があっても、飼い主が与えるまでは絶対にねだったり、ましてや手を出したりしない>・・・食卓に飛び乗って食べ物に手を出すなどという卑しい行為は教養のない猫のすることだとしっかりと洗脳しましたので。
<定められた場所で用をたす>・・・・父の許可をもらって、庭の一角に砂場を作りそこを定位置と決めました。むやみに庭を掘り返したりしたら大変だったからです。
<池の鯉や金魚は大事に飼っているものだから手を出してはならないと言い含めた>・・・・これは理解できたのかどうか暫くは定かではありませんでした。・・・が、成功していたようで・・・これも後日譚に改めてご紹介します。
この訓練の日々の合言葉は、<犬に負けるな!>。
犬のする芸、たとえばお預けなどは、三匹とも出来たのですが、でも私は基本的に芸を覚えさせることを好みませんでした。
繰り返しますが、猫としての誇りを持ってもらいたいと思っていましたので。
でも、どの猫でもこれだけのことが出来るかというと必ずしもそうでもないでしょうね。
三匹とも偶然かなり優秀な素質を持っていたのかとも思われます。
また、たぶん、彼らには出生からの追い目のようなものもあり、それをあの母猫から教え込まれていたのかもしれません。
また、飼い主である私のほうにも、どうしても訓練せねばという切羽詰まった状況があり、それに情熱を傾ける時間的余裕があったことも原因でしょう。
猫たちとの時間はこうして始まったのですが、思い出に刻まれていることは沢山ありますので、次回もまた彼らの様子を続いてお伝えしてみたいと思います。
では、本日の 第四話「犬に負けるな」 はこれにて完と致します。


