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新しいシャンソンを新しい言葉に乗せて

   シャンソンの訳詞のつれづれに                      ~ 松峰綾音のオフィシャルブログへようこそ ~

観月の宴 ~正伝寺の十三夜

 昨日10月27日は、「十三夜」でした。
 9月の仲秋の名月に対して「後の月」とも呼ばれますが、昨夜は、久しぶりで、ゆっくりと月を愛でる贅沢な時間を過ごしました。

 先日のジュリエットのコンサートの折、お会いしたのがご縁で、それ以来、なぜか意気投合したYさんから、「お寺でお月見の会があるのだけれど」とのお誘いを受けました。
 月を眺めるために京都のお寺に出かける、・・・・素敵、是非と。

 小堀遠州作の枯山水の庭園と、比叡山の借景で知られる西加茂の正伝寺での観月の会でした。
JR東海がポスターで紹介した正伝寺の名月 
 そういえば、以前、JR東海のポスターで紹介されていた気がして調べてみましたら、やはりありました。1996年のポスターです。

 これぞ秋、お月見、この美しい月を見ることができるなら「よ~し、京都に行くぞ!!」の気分になりますよね。

 陽が落ちる頃の集合でしたが、まだ行く機会のなかった正伝寺はどんなところにあるのか、方向音痴の私、暗い中迷うのも嫌だし、・・・明るい日差しの頃から、やがて陽が傾き、薄暮となり、月が昇ってくる・・・そういう変化も含めて味わってみたいと思い、午前中、下見散歩などしてしまいました。

   陽射しの中の正伝寺
 バスを降りて、しばらく行くと「正傳寺道」と書かれた道標が見えました。

   正傳寺道の案内    山門
 杉並木が続く閑静な道を黙々と歩き、やがて山門へ。
 臨済宗南禅寺派の「吉祥山 正伝護国禅寺」とあります。
 きらびやかではありませんが、禅宗らしい静謐な潔さを感じます。

   本堂への石段    本堂への石段のススキ
 杉並木と竹林の中に本堂へと続く石段。
 大きく揺れるススキ越しに、本堂が見えてきました。

 本堂に入り縁側に腰を下ろし、白砂の枯山水の庭を眺めました。
 白砂とさつきの枯山水のお庭
 さつきの刈込が目に鮮やかに飛び込んできます。
 七株、五株、三株に分けて植えられた七五三調の配置で、この上を自在に獅子の子が飛び跳ねる様を見立てた「獅子の子渡しの庭」なのだそうです。
お庭と比叡山の借景 
 低い白壁が白砂を囲み、枯山水の小宇宙を出現させています。
 壁の向こうには、比叡山を借景とした大きく広がるもう一つの宇宙があるのでしょう。
 
 日本の庭の持つ独特な美学ですね。
 
 縁側には赤い毛氈が敷き詰められて、本堂では、法事の読経が続いていました。ご住職の読経の声に耳を澄ましながら、気持ちが心地よく静まってゆくのを感じました。
 夜はこの庭で美しく輝く月を眺めるのかと、期待が膨らみます。
    縁側の廂    縁側の血天井
 広縁の天井は、関ヶ原の戦いの直前、伏見城に立て籠もった武士たちの自決の血天井です。

本堂を出て、お寺の庭にこんなお地蔵様と狸の置物が。
お地蔵様 狸の置物

 秋の野の花々。
 大好きな紫式部。 杜鵑(ホトトギス)。
紫式部の実 ホトトギスの花

南天も見上げるばかりの大木となって、実が可愛く色づいています。

とりあえず、下見散歩を終えて、帰宅、夜に備えました。

   観月の夕べ
 さて、本番。
 午後からどんどん雲が厚くなってきて、天気予報でも夕方から雨の予想。
 今にも降ってきそうな空模様に、「月の見えないお月見になりませんよう」と念じつつ、昼間歩いたばかりの道を再び辿ります。
 本堂に着くと、Yさん初め、お世話役の方々や、ご招待された皆様も既に揃っていました。その後も何人か三々五々到着して、総勢20名ほどの会となりました。
 正伝寺は月見の時期の数日間だけ夜も一般に開放されると聞いていますが、この日はYさんの特別なご縁で計らっていただけたのでしょうね。
 
 縁先に腰を下ろし、並んで、皆、薄暗がりの中に浮かび上がっている正面の比叡山と対峙しています。
 着いたときは雲が厚く、今にも降り出しそうに見えた空も、不思議に雲が流れ始め、その間に間に、月が見え隠れし始めました。
雲間から出た十三夜の月 雲も切れてお月見
 やがて雲は切れ、煌々とした白い光を放ってきました。
 次第に空高く、次第に輝きを増して、ただただ、皆でじっと見つめ続ける静かな時間と、山寺を包む冷気とに身がきりっと引き締しまってくる気がしました。
 
 写真が上手に撮れていなくて、申し訳ありません。
 正面に黒くシルエットを現している比叡山と、木々の黒い影の上に十三夜の月が射しています。

 正伝寺は1282年の創建だそうです。長い月日の中、比叡に昇るこの月を誰がどんな気持ちで眺めていたのでしょうか?
 今、この時間に、共に月を見る仲間と、この場所に居合わせる、・・・・「一期一会」の言葉が自然に心に入ってくる気がしました。

 そして、和気藹々と自己紹介。
 「まちづくり」に携わり、京都の景観を守る様々な文化的なイベントに尽力していらっしゃる方々と、その建築のお仕事をなさっていらっしゃる方々。
 テレビ番組の制作者や、新聞記者、編集者などの報道メディアの第一線で活躍していらっしゃる方々。
 画家、ファッションデザイナー、工業デザイナーなどのアート関係の方々。そしてシャンソン歌手の方もいらっしゃって。
 Yさんのお友達は皆、多様な分野の方たちでしたが、それぞれの皆様が、生き生きと興味深くご自身のお仕事や心情など語って下さり、お食事をしながら、お互いに大いに語り合い、あっという間の三時間が過ぎました。
 最後に、それぞれが一首ずつ短歌を作るという趣向まであって、突然配られた紙を前に、皆、頭を抱えながら作歌に夢中になり・・・。私もシャンソンの訳詞とはちょっと勝手が違って・・・・。
 詠み人知らずということで、名は伏せてそれぞれの歌が紹介され、大いに盛り上がりました。

 心地よい酩酊感の中での正伝寺の宴。 
 幽玄の世界に遊んだ、秋の一夜でした。


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