
『風立ちぬ』
夏の終わり、今年も束の間の休日を、軽井沢で過ごしています。
軽井沢は多くの文学者たちにゆかりの深い地でもあります。
芥川龍之介、有島武郎、川端康成、室生犀星、堀辰雄、立原道造、・・・・ロマンチックな作品が落葉松の木立を背景とする自然の中で生み出されていますが、そんな世界に心を留めることも、私にとって、この地を訪れる楽しみの一つになっているのかもしれません。
さて、『風立ちぬ』というと、数年前のジブリのアニメ映画を思い浮かべる方のほうが圧倒的に多いのではと思います。
でも、あらすじに下敷きとなっている部分はあるものの、原典である小説『風立ちぬ』は全く別の純文学で、昭和12年に発表された堀辰雄の古典的名作です。
風立ちぬ いざ生きめやも
ポール・ヴァレリーの詩『海辺の墓場』の一節、
Le vent se lève, il faut tenter de vivre.
というフレーズからこの「風立ちぬ」というタイトルは採られていて、「風が立った さあ生きることを試みねばならない」というような意味なのです。
作者堀辰雄自身に起こった悲恋の顛末を忠実に描いている作品で、語り手の『私』は彼、そして主人公の『節子』は、実際に彼の婚約者だった女性をモデルにしています。
晩夏の軽井沢で若き二人は出会い、純愛を育んでゆくのですが、彼女は当時死病であった重い肺結核を患っており、富士見高原のサナトリウムで闘病生活を送ることになります。
その彼女と婚約して、彼女の命を共に生きることを決意し、付き添って彼も療養所で看護の日々を過ごすのでした。
死の影と対峙しながら、限りある「生」を刻んでゆく時間が、美しい自然、刻々と移り変わる季節の流れの中で、静謐に鮮やかに描かれていて、作品全体が上質な一篇の詩を読むように心に染み入ってきます。
「風」は二人の出会いの場面において、運命の幕開けを告げるように一陣吹き抜け、そして彼女亡き後、邂逅の地である軽井沢に彼が戻った時、荒涼とした冬の木立に落ち葉を舞い上がらせます。
「風が立つ」とは、人生が何かによって大きく揺り動かされてゆくときの前兆や予感であるのでしょうか。
人の世の有限な全てのものを超越し、翻弄されず、永遠に生きようとする愛が意志的に描かれてゆく美しい小説です。
高原の朝 ~風 霧 草花
早朝の風景をレンズに収めてみました。
軽井沢の朝は、霧に覆われていました。

向こうが見えないくらいの霧に包まれる幻想的な朝明けです。
霧を運ぶ風が、木立を冷たく静かに吹き抜けてゆきます。
今年の猛暑は、高原といえども例外ではなかったのですが、それでも朝晩は急に気温が下がり肌寒いほどです。
晴天かと思うと突然雷雨に見舞われたり、朝夕、深い霧が立ち込めたり、気温の落差が大きくなっている分、そういう気象の振り幅も半端ではないのでしょうね。
霧に濡れた苔の上に木漏れ日が射します。

昨晩の雨を受けた桂の木々。ハートの葉が可愛いですね。

萩の花も咲き始めています。
霧と光と冷気に良く映えます。

陽が射してきて。
立秋を過ぎてまだ瑞々しく咲いている白紫陽花の花々。
風の音を聞きながらの、何があるわけでもない早朝の散歩は日常を忘れる贅沢な時間でした。
高原の空 ~風 雲 光
くっきりと晴れ渡った空、少しだけ遠出をしたくなって志賀高原までドライブしてみました。
軽井沢から2時間弱、ひたすら山を上ります。
山の景色がだんだんと変わって行きます。

「風衝形」というのでしたっけ、高山地帯など風を強く受ける場所で、それに適応して生育してゆくために、本来の樹形が変化して低く変形したものですが、まさにこの辺りの樹木は皆、身を屈めて風に向かっているようです。
耐えきれなくなったのでしょうか。立ち枯れの木々も見えます。
見晴らし台で車を止めてみました。
「日本国道最高地点 標高2172m」とありました。

そして、何やら撮影をしている様子。
「中之条町」と車体に記されているワゴン車(公用車なのでしょうね)が傍に止まっていて、何人かのスタッフの方たちが打ち合わせの真っ最中のようでした。
町の広報誌か、観光用ポスター、あるいはコマーシャルビデオでも撮影していたのかもしれません。バイクを操っているのは、出演者(モデル?)のようです。
山肌を心地よく吹き抜ける爽風。
流れる雲。

真っ青で高く澄み切った光る空も、一足早い高原の秋です。
ドライブを堪能して、奥志賀高原のお洒落なホテルに立ち寄り一休み、チーズスフレにブルーベリージャムが添えられたデザートを頂きました。

新鮮な牛乳で作られたチーズとブルーベリーは、この季節ならではの高原の幸です。
おまけのお話 マイ・バースディー
そして8月21日はマイ・バースディー。
いつも勝手に自己申告して恐縮なのですが、今年も無事に迎えることのできた誕生日です。
友人から届いた「Bon anniversaire!」のお祝いメールも嬉しく心に染みます。
恙なく新しい夏が繰り返されてゆく幸せをしみじみと思いました。
『風立ちぬ』ではありませんが、色々な風が人生には吹き抜け、でもその中で幾つもの「一期一会」がもたらされて、自分だけの時間が作られてゆくのですね。
そうであることをいつも<幸せ>と思っていたいと願う今年の誕生日でした。

ケーキに添えられたHappy Birthdayの文字。
今年は、知人たちがこんなお祝いをしてくれました。
夏の終わり、今年も束の間の休日を、軽井沢で過ごしています。
軽井沢は多くの文学者たちにゆかりの深い地でもあります。
芥川龍之介、有島武郎、川端康成、室生犀星、堀辰雄、立原道造、・・・・ロマンチックな作品が落葉松の木立を背景とする自然の中で生み出されていますが、そんな世界に心を留めることも、私にとって、この地を訪れる楽しみの一つになっているのかもしれません。
さて、『風立ちぬ』というと、数年前のジブリのアニメ映画を思い浮かべる方のほうが圧倒的に多いのではと思います。
でも、あらすじに下敷きとなっている部分はあるものの、原典である小説『風立ちぬ』は全く別の純文学で、昭和12年に発表された堀辰雄の古典的名作です。
風立ちぬ いざ生きめやも
ポール・ヴァレリーの詩『海辺の墓場』の一節、
Le vent se lève, il faut tenter de vivre.
というフレーズからこの「風立ちぬ」というタイトルは採られていて、「風が立った さあ生きることを試みねばならない」というような意味なのです。
作者堀辰雄自身に起こった悲恋の顛末を忠実に描いている作品で、語り手の『私』は彼、そして主人公の『節子』は、実際に彼の婚約者だった女性をモデルにしています。
晩夏の軽井沢で若き二人は出会い、純愛を育んでゆくのですが、彼女は当時死病であった重い肺結核を患っており、富士見高原のサナトリウムで闘病生活を送ることになります。
その彼女と婚約して、彼女の命を共に生きることを決意し、付き添って彼も療養所で看護の日々を過ごすのでした。
死の影と対峙しながら、限りある「生」を刻んでゆく時間が、美しい自然、刻々と移り変わる季節の流れの中で、静謐に鮮やかに描かれていて、作品全体が上質な一篇の詩を読むように心に染み入ってきます。
「風」は二人の出会いの場面において、運命の幕開けを告げるように一陣吹き抜け、そして彼女亡き後、邂逅の地である軽井沢に彼が戻った時、荒涼とした冬の木立に落ち葉を舞い上がらせます。
「風が立つ」とは、人生が何かによって大きく揺り動かされてゆくときの前兆や予感であるのでしょうか。
人の世の有限な全てのものを超越し、翻弄されず、永遠に生きようとする愛が意志的に描かれてゆく美しい小説です。
高原の朝 ~風 霧 草花
早朝の風景をレンズに収めてみました。
軽井沢の朝は、霧に覆われていました。


向こうが見えないくらいの霧に包まれる幻想的な朝明けです。
霧を運ぶ風が、木立を冷たく静かに吹き抜けてゆきます。
今年の猛暑は、高原といえども例外ではなかったのですが、それでも朝晩は急に気温が下がり肌寒いほどです。
晴天かと思うと突然雷雨に見舞われたり、朝夕、深い霧が立ち込めたり、気温の落差が大きくなっている分、そういう気象の振り幅も半端ではないのでしょうね。
霧に濡れた苔の上に木漏れ日が射します。


昨晩の雨を受けた桂の木々。ハートの葉が可愛いですね。

萩の花も咲き始めています。
霧と光と冷気に良く映えます。

陽が射してきて。
立秋を過ぎてまだ瑞々しく咲いている白紫陽花の花々。
風の音を聞きながらの、何があるわけでもない早朝の散歩は日常を忘れる贅沢な時間でした。
高原の空 ~風 雲 光
くっきりと晴れ渡った空、少しだけ遠出をしたくなって志賀高原までドライブしてみました。
軽井沢から2時間弱、ひたすら山を上ります。
山の景色がだんだんと変わって行きます。

「風衝形」というのでしたっけ、高山地帯など風を強く受ける場所で、それに適応して生育してゆくために、本来の樹形が変化して低く変形したものですが、まさにこの辺りの樹木は皆、身を屈めて風に向かっているようです。
耐えきれなくなったのでしょうか。立ち枯れの木々も見えます。
見晴らし台で車を止めてみました。
「日本国道最高地点 標高2172m」とありました。


そして、何やら撮影をしている様子。
「中之条町」と車体に記されているワゴン車(公用車なのでしょうね)が傍に止まっていて、何人かのスタッフの方たちが打ち合わせの真っ最中のようでした。
町の広報誌か、観光用ポスター、あるいはコマーシャルビデオでも撮影していたのかもしれません。バイクを操っているのは、出演者(モデル?)のようです。
山肌を心地よく吹き抜ける爽風。
流れる雲。

真っ青で高く澄み切った光る空も、一足早い高原の秋です。
ドライブを堪能して、奥志賀高原のお洒落なホテルに立ち寄り一休み、チーズスフレにブルーベリージャムが添えられたデザートを頂きました。


新鮮な牛乳で作られたチーズとブルーベリーは、この季節ならではの高原の幸です。
おまけのお話 マイ・バースディー
そして8月21日はマイ・バースディー。
いつも勝手に自己申告して恐縮なのですが、今年も無事に迎えることのできた誕生日です。
友人から届いた「Bon anniversaire!」のお祝いメールも嬉しく心に染みます。
恙なく新しい夏が繰り返されてゆく幸せをしみじみと思いました。
『風立ちぬ』ではありませんが、色々な風が人生には吹き抜け、でもその中で幾つもの「一期一会」がもたらされて、自分だけの時間が作られてゆくのですね。
そうであることをいつも<幸せ>と思っていたいと願う今年の誕生日でした。

ケーキに添えられたHappy Birthdayの文字。
今年は、知人たちがこんなお祝いをしてくれました。


