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新しいシャンソンを新しい言葉に乗せて

   シャンソンの訳詞のつれづれに                      ~ 松峰綾音のオフィシャルブログへようこそ ~

小さな夏休み

八月の終わり、どことなく秋の気配が感じられます。

 療養中の両親と共に浅間山麓で過ごしているうちにあっという間に、私の八月は過ぎてゆきました。
 東京に仕事に出掛ける以外は、家事・介護に専心する日々、でも高原の新鮮な野菜を中心として、体に良い食材をふんだんに使った料理を作り、心なしか<血液サラサラ>状態で身も心も軽くなってきたような気がしています。

 少し体調を回復した両親を無事送り届け、後数日になった夏休み、小さな山の家にこもって、できるだけどこにも出掛けず、清々しい空気や、木漏れ日や、木々を渡る風音、樋をつたう雨の勢いなどに、静かに心を浸したいと思っています。

   「勝手に松峰綾音ファン倶楽部」一年ぶりの再会
 ・・・・と思っていたのですが、当地で昨年発足した「勝手に松峰綾音ファン倶楽部」の仲間たちと一年ぶりの賑やかな再会となりました。

 昨年はyoutubeの制作をしていただいたり、スタジオでミニコンサートを催したりと音楽関係のイベントが盛り沢山だったのですが、今年はそれは小休止。
 その代わり、皆様の発案で、これからの活動のためのパンフレットを作成することになりました。
 既に八割がた出来上がっているのですが、完成したら、改めてご報告したいと思います。
途中大幅変更もあり、何日も膝を突き合わせ、盛り上がり、時間を費やしたなかなかの力作で、お気に入りの出来栄えなのです。

 そのようなわけで、「勝手に松峰綾音ファン倶楽部 令和元年夏の集い」は専らインドアだったのですが、途中気分転換を兼ね、近場にちょっとだけ出かけようということになりました。

   北軽井沢 浅間牧場
 陽射しの眩しい日、「高原の休日」らしく、浅間牧場に行ってみることになりました。


   丘を越えて行こうよ
   真澄の空は 朗らかに晴れて
   楽しい心
   鳴るは胸の血潮よ
   讃えよ わが青春(はる)を
   いざゆけ 遙か希望の丘を越えて

 じっくりと味わってみると、清々しく明快で、格調の高い美しい日本語だと思います。
 昭和初期に藤山一郎さんが歌って大ヒットした往年の名曲『丘を越えて』の一節ですが、この浅間牧場を舞台として詞が作られたとのこと。

 そして、昭和26年制作の日本初総カラー映画、『カルメン故郷に帰る』のロケ地でもあるということで、当時は大変な人気だったようです。

 休憩所の一隅には、ノスタルジックな香り漂う映画のポスターや『丘を越えて』のレコードジャケットなどが掲げられていました。
 当時の大女優、高峰秀子さんが水玉のワンピースで美しく牧場の丘に佇んでいる写真など、大切に展示されていて、ほのぼのとした空気を漂わせています。

 牛たちは牛舎で午後のまどろみなのか、姿を見ることはありませんでしたが、信州の山々に囲まれた見渡す限りの牧草地が目に眩しかったです。

 聞くところによると、軽井沢をこよなく愛し生前何度も訪れていたというジョン・レノンが、この牧場を、どこにもないほどの絶景であるとして大絶賛したとか。
 浅間牧場
 皆でワイワイ言いながら丘の頂まで登り、記念写真。
 鮮やかな緑の中、和やかな牧場の昼下がりの雰囲気が伝わるでしょうか。

   45分間の遊園地
 浅間牧場からほど近いところに、「おもちゃ王国」という遊園地があります。
 子供たちに大人気のアミューズメントパークで、夏は連日賑わいを見せているのですが、「この遊園地のフリーパス券をこの間何枚も頂いたので、試しに皆で行ってみませんか」という仲間の突然の提案に一同即賛同。

 でも時計を見ると17時の閉館まであと45分しかありませんでした。
 人気のアトラクションは結構並んでいるし、<ご家族で一日楽しめます>という充実した施設、一瞬、「ビュッフェタイムは後45分しかありませんが本当にお入りになりますか」と入り口でウエイターさんに確認されたときみたいな気分になりました。

 ディズニーランドの対極にあるようなオーソドックスな正統派遊園地で、心が和みます。
木馬
 一番レトロな<回転木馬>と<観覧車>、そして<ゴーカートの電車版>みたいな乗り物に乗ってみました。
電車
 大人同士でこういう場所・・・と、当初少し憚られたのですが、カップルは勿論、女性グループ、男性グループなど、大人だけで来ている方たちも割と多くいて、すぐに溶けこんでしまいました。

 思えば私は子供の頃、遊園地にはあまり興味がなくて、ほとんど行ったことはありませんでした。
 家の中で本ばかりに夢中になっていた超本の虫、今になって遅ればせながら神様が帳尻を合わせてくれたのかしらと、なんだか可笑しかったです。

   小さなバースディー
 そして最大のハプニングは、このバースディーケーキ。
 嬬恋村の朝取り新鮮キャベツです。
キャベツのケーキ
 今年も8月21日を「勝手に松峰綾音ファン倶楽部」の皆様にお祝いしていただき、とても幸せでした。

 「ハッピーバースディー」の歌、飛び切りのウイットと優しいお心遣いに大感激。

 夏にこうして再会して、屈託なくおしゃべりし、近況を伝え合い、温かい心を通わす・・・・良い仲間に出会えた幸せをかみしめています。

 そんな8月も今日で終わりです。



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『風のうわさ』

訳詞への思いタイトル
 前回の記事からすっかりご無沙汰してしまいました。
 成就院コンサートが一段落してちょっと一休みのつもりが、気づけば夢のようにひと月余りが経っています。

 実は、コンサート後、訃報が続いて、ひどく気落ちする7月でもありました。
 親しい友人、先輩、大好きだった叔父と叔母、相次いで・・・・・人の世の無常を思わずにはいられません。
 今、こうしていられることの幸せが、胸に沁みます。

暑中見舞い

 遅い梅雨明け宣言と共に、猛暑の日々。

 友人からこんな素敵な暑中お見舞いを頂きましたので、ご紹介させていただきます。

 私はといえば、38℃超えの京都を離れ、今、両親の療養のため共に軽井沢で過ごしています。
 昼間はさすがに30℃になりますが、夕暮れ時になると涼しい風が吹いてきて、それが何よりのここでのご馳走。
 夏に順応できず、熱中症寸前だった母もようやく体調を回復しつつあります。

 ここにいると梢を抜ける風の音が心を和ませてくれます。
 遠くから風が近づいてくる微かな音が聞こえてきます。

 落葉松林の風景を見ながら、久しぶりに「訳詞への思い」、『風のうわさ』を取り上げてみたいと思います。

      『風のうわさ』 
                            訳詞への思い<28>

   カーラ・ブルーニ
 2002年にリリースされたカーラ・ブルーニCarla Bruni のファーストアルバム『Quelqu'un m'a dit』。
カーラ・ブルーニ
 彼女の自作曲を集めたこのアルバム中に、同名のタイトルで『Quelqu'un m'a dit(ケルカン・ マ・ディ)』という曲が収録されている。
 <誰かが私に言った>という意味だが、『風のうわさ』という邦名で既に紹介されているので、私の訳詞のタイトルもこれに従った。

 サルコジ前フランス大統領夫人として注目された「カーラ・ブルーニ」は、1967年、イタリア・トリノ生まれ。フランスでスーパー・モデルとして人気を博したが、2002年歌手に転身。
 <美貌と知性、そして素晴らしい音楽的才能。そのすべてを神様から与えられた類まれなる逸材、カーラ・ブルーニ>
 このうたい文句と共に、ファーストアルバムは、世界中で100万枚を超えるヒットになった。

    Quelqu’un m’a dit 
  
  <冒頭部分 対訳>
  On me dit que nos vies ne valent pas grand chose
  人は私に言う。私たちの生きていることに大きな価値などないって
  Elles passent en un instant comme fanent les roses.
  人生は薔薇が枯れてゆくように、一瞬で過ぎてゆく
  On me dit que le temps qui glisse est un salaud
  人は私に言う。過ぎてゆく年月は卑怯者だ。
  Que de nos chagrins il s’en fait des manteaux
  私たちの悲しみを重ねていくことだから。
  Pourtant quelqu’un m’a dit…
  けれども、誰かが私に言う。  
    
  Que tu m'aimais encore
  あなたが私をまだ愛していると
  C'est quelqu'un qui m'a dit que tu m'aimais encore.  
  あなたが私を愛していると言ったのは誰かだ
  Serait-ce possible alors ?
  それはあり得ることかしら?

  
   <「風のうわさ」 松峰 訳詞>
  生きることに大した意味なんてないって 人はいつも言う
  悲しみだけ抱えたまま 色褪せていく薔薇のように
  でも 誰か言う
  
  そう あなたが 私のこと 愛しているって
  ねえ まだ今も 
  本当かしら?
  誰がささやくの?

 歌の中の女性は、失くした恋をどのように偲んでいるのだろうか。
 カーラ・ブルーニは、夢みるように、美しい幻影を見るように、淡々としたウィスパーボイスで歌っていて、さらりと、風のささやきに紛れるような密やかな繊細さが感じられる。
 力一杯悲恋を歌い上げる日本の演歌の対極にあるような世界・・・。
 風の音のような曲、戸惑うような未成熟な喪失感を、訳詞にそのまま映し取りたかった。

 そして、彼女は、ある夜更けに、誰かが囁く声をはっきりと聴く。

  彼は貴女のこと 今でも愛しているわ
  でも これは秘密 誰にも言ってはだめよ

 この曲『風のうわさ』を最初に歌ったのは2008年の内幸町ホール、訳詞コンサートvol.2「もう一つのたびだち」のことだった。
 懐かしくなって、古い写真を取り出して改めて観てみた。
 10年前の自分、あの頃から大いに変わったような、そうでもないような・・・・

   『風に寄せて』
 立原道造の詩『夏花の歌』の朗読を6月の成就院コンサートで取り上げたのだが、同じノスタルジックな世界を漂わせている立原の詩『風に寄せて』を思い出した。
 カーラ・ブルーニの歌をBGMに、この詩を朗読したなら、きっと情景が共に重なってくる気がする。

    『風に寄せて』抄 立原道造

  風はどこにゐる 風はとほくにゐる それはゐない
  おまへは風のなかに 私よ おまへはそれをきいてゐる
  うなだれる やさしい心 ひとつの蕾
  私よ いつかおまへは泪をながした 頬にそのあとがすぢひいた

  風は吹いて それはささやく それはうたふ 人は聞く
  さびしい心は耳をすます 歌は 歌の調べはかなしい 愉しいのは
  たのしいのは 過ぎて行つた 風はまたうたふだらう
  葉つぱに わたしに 花びらに いつか帰つて



 カーラ・ブルーニのファーストアルバムのジャケットも今となってはとても懐かしく感じる。初々しい若さに溢れていて素敵だ。
 原曲はここからお聴きください。
真似


昨夏、真似して、おどけて、こんな写真を撮ってみました。

如何でしょうか.。
                                   Fin

 (注 訳詞、解説について、無断転載転用を禁止します。
 取り上げたいご希望、訳詞を歌われたいご希望がある場合は、事前のご相談をお願い致します。)
 





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