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新しいシャンソンを新しい言葉に乗せて

   シャンソンの訳詞のつれづれに                      ~ 松峰綾音のオフィシャルブログへようこそ ~

ベーコン蜂との遭遇

   木々の光、音
 今年は6月下旬から各地とも異常な猛暑でしたね。
 いっときの京都は、体感温度が40℃を超えるのではと思うほどで、その中で引っ越し荷物の片付けなどしていたら、まさにダウン寸前でした。
 ようやく落ち着き、いつも夏になると訪れる浅間山麓に逃れるようにやってきたのですが、朝晩は羽織り物が必要なほどの涼しさで、今、つかの間の休息を味わっています。
 
 ここでの贅沢は、「何もないこと・何もしないこと」かなって思います。ただ、木々を渡る風の音に耳を澄まし、木漏れ日を浴び。
 ・・・葉擦れの音しかない世界で、静寂が満ちてくるのを感じ、木漏れ日の陰影に心身の再生を感じます。
 もちろん、自然は常に穏やかなわけではなく、叩きつける豪雨だったり、地響きがするような雷鳴だったり、圧倒的な脅威で恫喝されているような気がすることもありますが、それも含めて、人は自然に包まれて生かされていることを実感することはとても大切なことなのでしょう。

 この夏は東京からの友人とこの地で合流しました。
 早朝の散策、語り合い、笑い合い、静けさを満喫し、素朴な地元の食材を堪能し、命の洗濯ってこういうことのように感じています。

   ベーコン蜂との遭遇
 上機嫌で、ゆっくりと朝の食事。
 野菜も果物も卵も牛乳も採りたて新鮮で、何気ないサラダも飛び切り美味しくありがたいなあとしみじみ感じます。
ベランダの食卓にたくさん並べてさあ!と思った時でした。

 耳元で怪しげな羽音がブンブン。
 甘い香りを嗅ぎつけて蜂が一匹テーブルの周りを旋回し始めました。
 あちらが先住者だから静かにやり過ごすことが懸命だと日ごろから有事に備えて覚悟していましたし、蜂はむやみに追い払うと敵対して襲ってくる、何もしないでじっと動かないでいれば決して向かってこないと、聞いていましたので、友人と共に身を固くしてじっと様子を見ていました。
 最初は遠巻きに円を描きながら、ターゲットを物色するように飛び回り、そのうちに段々とその円を狭めて、標的を特定してゆくようでした。
 羽音は耳元で大きくなってきて、わかっていても身をすくめたり、手で追い払いたくなります。
 友人は既に覚悟を決めたらしく、なかなか太っ腹で、「おはよう蜂さん。ゆっくり食事をしたいから気が済んだら早く向こうに行ってね」とかなんとか語りかけていました。
 ヨーグルトや果物やジャムや甘い香りのするものがいっぱいあったのですが、それらには目もくれず、ポテトサラダのお皿の縁に居場所を見つけたようでじっと留まりました。
 それから何度か飛び回ってはお皿に戻り・・・やがてポテトサラダのトッピングに散らしたベーコンの上に降り立ったまま触角を立て、クンクンと匂いを嗅ぎだし、びくとも動こうとはしません。
 ベーコンは細かく刻んで乾煎りしたもので、強いスモークの香りが際立っていました。
 蜂は「これだ!!」というような嬉々とした様子でポテトの中から夢中でベーコンを掘り出そうとしています。
 すぐそばに私たち人間がいるのに、もう全く目に入っていないようで、この作業に全精力を注いでいます。

 ベーコンはポテトの中に食い込んでいて、蜂の体で引き上げるにはなかなか骨が折れるようです。
 口にくわえたまま体を丸め、身体全体を使って持ち上げようと必死で格闘しています。とても人間的な様子に私には見えました。
 まるで、汗をかきながら一人綱引きしているようです。
 何度も何度もあきらめず引き抜こうとし、ようやくスポっとベーコンが離れた時には、その勢いで、蜂はポテトの上に転げました。
 でも満足そうに勝ち誇ったように、口にくわえてテーブルの周りを一周してどこかに飛んでいきました。
 私も友人も怖さを忘れ、なんだか変な感動を覚えた気がします。
 大きく一息ついて、今の光景についてちょっと興奮しながら話し合いました。
 ポテトサラダはどうしようかということになりましたが、蜂がつついたからと言って各段毒があるわけでもないでしょうから、大丈夫なのでは、いう結論となり、何事もなかったように美味しく食べ始めました。

 一件落着と思いきや、ベーコンの油を吸ってパワーアップしたかのように意気揚々とさっきの蜂がまた戻ってきました。
 今度は迷うことなくポテトのお皿に直行し、またベーコンの上に降り立ちました。
 で、さっきと同様な作業を繰り返し・・・。
 巣に食料を運んでいる働きバチなのでしょうか。
 見かけはそんなに大きくなくミツバチのような形状をしているのですが。
 普通の蜂は花の蜜や甘い果物などを好むのではないかと思っていましたので、ベーコンだけを狙うこの蜂は肉食系、だとするとスズメバチなのでしょうか。
 スズメバチだったら、「蜂さ~ん」などと言っている場合でもなく、これは危ないかもと考え始めましたが、でもとりあえずは私も彼女も食事の手を止めて再び微動だにしないで蜂の観察を再開しました。

 コツをつかんだようで、先ほどよりは短時間で上手にベーコンを略奪し、勝ち誇ったようにお腹のあたりに抱え込んでまたぐるぐるとどこかへ飛んでいきました。とんびやサギや鷲が魚を掴んで飛び立つような雄姿です。
 「また蜂に食べられる前に、ベーコンを全部食べてしまおう」との彼女の提案。
 ポテトの奥の方に数枚だけベーコンを残して、私たちは蜂と知恵比べをする態勢に入っていたようです。
 予想通り、今度はすぐに三度目の登場。
 ポテトもベーコンも随分減っていることに不信を持ったかのようにしばらくじっと考え込んでいましたが、やおら実力行使で、ポテトの中に隠されたわずかなベーコンとの大格闘が始まりました。
 今思うとカメラを傍に置いておかなかったことが痛恨の極みです。
 写真か動画でお見せ出来たらどんなにか興味深かったのに・・・。
 こんな時は、次のチャンスに備えてカメラを取りに行こうということには頭が働かず、まず食べてしまおうという気が先にたち、申し訳ありませんでした。

 本当にスズメバチかもしれず、ベーコンのある場所と学習され、仲間を引き連れてやってこられても大変なので、そのあとは、お皿はすべて屋内に撤収し、安全地帯で食事を再開しました。

 これがベーコン蜂の顛末記です。
 ちょうど私の誕生日の8月21日のことでした。
 あの蜂は、この日一日は所在なく時々飛んできていましたがやがて姿を見なくなりました。
 ファーブルの気持ちがほんの少しだけわかったような気がした出来事でした。



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