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新しいシャンソンを新しい言葉に乗せて

   シャンソンの訳詞のつれづれに                      ~ 松峰綾音のオフィシャルブログへようこそ ~

紋次郎物語 ~その六<猫吉>との日々~

紋次郎 前回の紋次郎物語、「その五 ~<まだら>との日々~」には反響を多く頂きました。
 三匹の子猫の中で、一番短命で幸薄かった<まだら>が、今、改めて、皆様に偲んで頂くことになり、一番驚いているのは、<まだら>自身でしょうけれど、人間大好きの猫でしたから、さぞ喜んでいるのではと思います。
 さて、今日はこの続きで<猫吉(ねこきち)>のことをお話ししようかと思います。
その前に、・・・この「紋次郎物語」は早や その六 となりました。
 今回初めてご覧になられる方は、出来ましたら
 その一から遡って頂けるとよろしいかと思います。
 いつも読んで下さっている方は、早速。


   ~ その六 <猫吉>との日々 ~
 猫吉・・・弟が名付けた<ねこきち>という、人を食ったようなとぼけた名なのですが、実は、今となっては、これ以上ないというくらいしっくりとはまっているのです。

 前々回の記事に、下記のようにご紹介したかと思います。

 「他の二匹に比べて、ひときわ体が小さく、全体的に華奢で、足が長くすらっと伸びた、おっとりした品の良い白猫です。唯一目の上、眉のところに、平安朝のお公家さんそっくりな黒い八の字眉のような模様が入っています。」

 <まだら>や<紋次郎>に比べると、いつもポワンとしていて、ワンテンポ後ろにある、大人しくて、いつの間にか気付くと音もなくそこにいる、という淡々としたスローペースの猫だったのですが、でもそれでは、個性がないかと言えばそんなことはなく、唯我独尊、<猫吉>という個性そのものの、とびきりユニークな猫でもありました。
 ですので、あの何とも言えない雰囲気をしっかりと説明するのは割と難しく・・・伝わると良いけど・・・でも、敢えて頑張って、お話ししてみますと。

   特徴一
 しゃべらない。・・・限りなくゼロに近く。
 初めは、冗談ではなく、喉にどこか機能障害でもあって、声が出ない猫なのではと、皆で心配したくらいでした。
 2~3日全く声を聞かないなどということはざらで、「この間鳴いたのはいつだっけ?」という会話が我が家では普通にされていました。
 そのうち、すっかり慣れて、それが<猫吉>で、当たり前になってしまいましたが、それでも時々、やはり、声帯付近のどこかが悪くて、いよいよ悪化したのではと、真剣に心配したりしたものです。

 私達との意思の疎通は主にアイコンタクトで、でも、それはそれで、大した不便もなく、大体伝わっていた気がします。
 猫吉 1
最初は皆、<きち君>とか、<きっちゃん>とか呼んでいたのですが、そのうちに彼の最大の庇護者である弟が、<ねこきちさん>とえらく丁寧に呼びかけるようになったので、右に倣って、<きちさん>というのがいつもの愛称に固定してゆきました。・・・・・父だけは<猫吉>、常にどの猫にもフルネーム、呼び捨てでしたが。

 <きちさん!>と呼びかけると、ゆっくり顔を向けて、じっと見詰めるのが、彼の返事なわけです。で、慌てず騒がず優雅に静かに、こちらに寄ってきます。
 ほとんどこれですべてでした。
 時々、彼の方に用事のある時は、やはり静かに寄ってきて、人の足の周りに体を摺り寄せてきます。更に、彼なりに急いでいるときには、頭でグイグイと押してきて、その力加減で緊急度を図ることができました。
 それで、こちらが「どうしたの?」「お腹すいたの?」とか一方的に話しかけるのですが、<猫吉>もこちらの言葉はかなり正確に理解しているらしく、それなりにちゃんと反応しますし、場合によっては、「ニャア~」と猫らしく答えることもありました。顔に似合わないドスの効いた低音で、可笑しかったです。

   特徴二
 綺麗好き。いつも真白。 
 我が家の猫、三匹の猫とも、必要な躾は厳しくしましたが、行動面においては束縛しませんでしたので、それぞれが自由に思いのまま暮らしていたように思います。
 元がノラ猫出身ですので、自然児たる感覚を尊重し、<在野に在る>というのが一番自然で幸せなのではという気がしていました。それで、家に入りたいときにはいつでも入れる状態は確保しましたけれど、外での暮らしも自由にさせていましたし、彼らの日々は、伸び伸びした人生ならぬ猫生だったのではと思うのです。
 でもその結果、雨の日などは泥だらけ、ずぶ濡れで、<紋次郎>などは本当にドブネズミみたいにみじめな浮浪猫になってネコ穴から顔を出すことはしょっちゅうでした。特に彼らをお風呂に入れることも、ましてや動物の美容院に連れてゆくことなども皆無でしたから、可哀そうに、言ってみれば生まれたまま放ったらかしだったわけです。
 なのに、今もって不思議なのですが、<猫吉>は本当にいつも真白な綺麗な猫で、暇さえあれば身づくろいなどしていましたが、雨の中に出て行っても、びしょびしょになって帰ることなど、全くありませんでした。
 綺麗に乾かしてから、身じまいをして入ってきていたのでしょうか?

弟の足に甘える猫吉
 そういうどこかノーブルな感じも、弟が彼をとても気に入っていた要素の一つだったのかもしれません。
 思いは通じ合うものらしく、<猫吉>も弟には一番なついていて、弟のことを大好きだったみたいです。
 <ねこきちさん>と呼ばれ、嬉しそうにはしゃいで弟の足にじゃれつく<猫吉>の写真。普段他の人には見せない顔をしています。

嬉しい時や甘える時も、喉を鳴らしながら、やはり頭をグルグル、グイグイ、足の周りをダンスするみたいに行ったり来たりしていて、その様子は何とも可愛いのです。

<まだら>や<紋次郎>との猫同士の会話ではさすがに声は出していたようですが、それでも極端に寡黙で、いつまでも鳴き続ける等という事はついに一度もありませんでした。

   特徴三
 些細などうでも良いことなのですが。
 純然たる和食党で小食でした。
 決まった食事以外の間食は出されても手をつけず、ダイエットの模範みたいな猫でした。
 <紋次郎>がワイルドな肉食系だったので、兄弟でも本当に対照的だったなと思います。
 ほうれん草のおひたしと、梅のマークの「山本海苔」が大好物だったのです。 
 他のブランドではなく山本海苔のみ、それも味付け海苔ではなく焼海苔と、何だか良くわからない変なこだわりがこの猫には断固としてありました。
 <うそだあ~~>と思うでしょうが、本当のことで、私達姉弟も半信半疑、或る日、色々試して<猫吉>味覚実験をしようということになりました。
 弟は「山本海苔の焼海苔のみ」に賭け、私は「他のメーカーの海苔も食べる」に賭けて、何種類か混ぜて食べさす目隠し実験みたいなものも色々試みたのでしたが、ホントにホント!! 弟の圧勝でした。
 私自身も一緒になって、色々なブランドの海苔を食べ比べてみましたが、味の違いは全然わからず、・・・・<猫吉>は本当に変わった凄い猫でした。
 それ以来、私の中では、梅のマークは、ひれ伏したくなるような黄門様の葵のご紋に匹敵するものとなっております。

   特徴四
 <猫吉>は、月の出ている晩は、いつも必ず端座して夜空を見上げていました。
 縁側にすっと背を伸ばして座って、じっと月を見上げて、長い長い時間びくとも動きませんでした。
 そういう時の<猫吉>の姿は、『月夜と白猫』とでもいうタイトルの童話を書きたくなるくらい、メルヘンティックで幻想的に思われました。
 また、「<きちさん>が月を見てるね。」っていつも、私達家族は、彼の姿を不思議に感じていたのです。
 写真は家の中でのものですが、ちょっと首をかしげたこんなポーズでした。
月を見る猫吉のポーズ
 弟は、「<ねこきちさん>は月から来た使者なんだよ」と、冗談めかして、言うようになりました。
 <月からの使者>・・・かぐや姫のお話のようで、こんなこと口にすると変な人みたいなのですが、猫達との日々の中で、不思議なことが重なってくるにつれ、合理的には割り切れない、目に見えない世界のことって色々あって、<ホントに弟の言うこともありかもしれないな>ってどこかで納得したくなるような気持ちも動いていました。
  <猫吉>は、それから6~7年ほど、こうして一緒に暮らし、或る日、忽然と姿を消して、戻ってきませんでした。

 事故にでもあったのではと、随分探しましたが、全く所在がわからず、しばらく家族皆、ぽっかりとしてしまいました。
 居なくなったのは、思えば秋の満月の夜でした。
 弟は「やはり月に帰ったんだ」とぽつりと言って、寂しさを埋めていたようです。

 今でも、月を見上げていた不思議な白猫、<猫吉>のことが懐かしく思い出されます。

 
  紋次郎物語 ~その六 <猫吉>との日々~ これにて完と致します。



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