
西の歌舞伎座、雅やかな佇まいの京都四條南座で、8月18日から10月24日まで、『山田洋次の軌跡~フイルムよさらば~』という大々的なイベントを行っているのをご存知でしたか?
山田洋次監督の映画は好きで、これまでに結構観てきましたし、何と言っても私、渥美清さんの大ファンなのです。
監督生活50周年を記念して、これまで撮った全80作品を35ミリフィルムで、二か月間に渡って日替わりで上映し、併せて、映画関係の様々な展示や体験コーナーなどで紹介してゆこうという大変ユニークな企画です。
京都四條南座
いざ南座へ。
我が家からはそぞろ歩きの散歩道を鴨川べりまで来ると、深緑のしだれ柳の向こうに南座が見えてきます。
見上げると『毎日 寅さん』の看板、心がはやります。
陽射しの強い日、東京に比べて京都は、10代の女性まで、日傘をさしている方が圧倒的に多い気がします。
などと思っているうちに、南座の前に。
『山田洋次の軌跡~フィルムよさらば~』の看板が大きく掲げられています。
年末恒例の顔見世興行などでは、一等席チケットは25000円位、ともかく中に入ろうと最末席を選んでも5000円以上はかかってしまいますが、今回の入館料は500円、何だか嬉しいですよね。
入館料と午前・午後の映画観賞券、映画セットの体験料、ミニシネマ二本分、全部のイベントがフリーパスの1700円ワンデイチケットを購入してみました。
でも、チケット売り場にはもっとすごいものが。
『全期間フリーパスポート』というものが限定で売り出されているようで、二か月間毎日通って、午前・午後に上映される80本の映画を全部観ることができるチケットで・・・・48000円、限定35名とありました。
どうせなら一日ゆっくりとシネマの世界に浸ろうと、開館ジャスト10時15分に入って、三階まである展示の様子をまずは探索。
工夫を凝らした展示コーナーが様々にしつらえられた中、階段の踊り場や廊下の途中、ロビーの片隅、いたるところに革張りのこんな大きな椅子が何気なく置かれてありました。 年季が入って風格充分です。
取りあえず11時からの映画を客席で観賞することにしました。
やはり伝統ある南座、席に着くだけで気持ちが華やいでくる気がします。後ろを振り返ると、3階席までぼんぼりが美しく飾られていました。
35ミリフィルムの音
寅さん、『男はつらいよ』は全作48作品に及びますが、これはシリーズ物では全世界の映画史上最多で、ギネスに登録されているのだそうです。
午前中に毎日、『男はつらいよ』の1話から48話まで一作ずつ上映し、午後は監督の他の映画を・・・という企画になっています。
そういえば、昔、<お正月は寅さん映画で>という時代がありましたよね。 私は、映画館にはそれほど通いませんでしたが、でもその後テレビで何回も放映されていますから、シリーズの大半は観ています。
でも、今、南座で改めて寅さんとは。
・・・・・格調高く古色蒼然とした客席と、上映前のワクワク感が何とも言えずノスタルジックな気がしました。
平日の午前中だったせいか、客席は中高年のご夫婦が多かったです。
劇場ですので、映画館お約束のポップコーンとコーラの持ち込みもなく、前の席のおばあちゃまに至っては、やおら袋の中からタッパに入ったゆで卵を出し始めたりして、何だかのどかでした。
上映直前に、会場内にこんな内容のアナウンスが流れました。
「最近はデジタル化が進んで、映画もコンピューター管理になっていますが、本日の上映は昔ながらの35ミリフィルムの映写でお楽しみいただきます。映画が始まる前にカタカタという音が聞こえるかと思いますが、これは映画フィルムが回り始める時の音です。皆様がこの音をお聴きになるのもおそらくこれが最後のチャンスかと思われますので、このフィルムの音も併せてお楽しみください」
というような説明でした。
客席は瞬間、水を打ったような沈黙に包まれて、確かにかすかにカタカタという音とともに映画が映し出されました。上演中フィルムの回る音と映写室からのチラチラ光る光の帯がスクリーンにまで伸びていて、これも忘れていた映画館との再会でした。
この説明は、山田監督が特別に指示なさったものなのだそうです。
まさに「フィルムよさらば」・・・・フィルム独特の味わいを楽しんで、いつまでも心に留めてほしいという、今回の企画の意図と合致するのですね。
この日は、午前が『寅次郎ハイビスカスの花』(マドンナは浅丘ルリ子)、午後が『幸せの黄色いハンカチ』(高倉健主演)で、両方ともよく知っている映画、共に昭和50年代制作の時代背景、人物たちで <三丁目の夕日>みたいな懐かしさはあるのですが、でも笑えるところでは大いに笑え、しみじみするところではちゃんと胸に詰まり、客席中がほんわりとした和やかな雰囲気に包まれていて何とも心地良い時間でした。
ムヴィオラの風格
これまでの様々な映画紹介のパネルなどに混ざって、映画フィルムそのものの展示も沢山ありました。
「フィルムがデジタルというきわめて効率的な媒体に代わるということは、例えばトーキーやカラーフィルムのような新しい表現手段の誕生とははっきり違って、映画産業資本の都合によってフィルムを奪われたという思いを映画人のわれわれは抱いてしまうのです。」
という山田監督の言がパンフレットに載っていましたが、この言葉は、演劇・音楽・美術等の芸術全般においても、同様に当てはまるのではないかと・・・・。
アナログの味わいやこだわり、風格、創造性というものが、デジタル化によって貧相に痩せ細ってきてしまう文化的危機を警告した言葉でもあるのではと感じました。
それは更に言えば、山田監督自身の映画の世界、・・・・家族や友人や普通の人間同志の触れ合い、交流、失いたくない大切な心を見つめて愛おしむような共通する眼差しに繋がっているのかもしれません。
「ムヴィオラ」の紹介がありました。
「ムヴィオラ」とは、映画フィルムの編集の際にフィルムの画像を見る装置で、フィルムとテープをセットして画像を確認しながらカットする箇所を探してゆく、編集技能と監督の意思とが一体となった難しい作業であるということです。
映画作りを担っている技術者の困難でもやりがいのある醍醐味だったのでしょうね。
その他、「男はつらいよ」に関する様々な展示やイベントも豊富にあり、こちらもとても興味深かったです。
でも、長くなりますので、今日はここまでとして。
次回の記事で続きをご紹介いたしますので、どうぞ引き続きお読み下さいね。
山田洋次監督の映画は好きで、これまでに結構観てきましたし、何と言っても私、渥美清さんの大ファンなのです。
監督生活50周年を記念して、これまで撮った全80作品を35ミリフィルムで、二か月間に渡って日替わりで上映し、併せて、映画関係の様々な展示や体験コーナーなどで紹介してゆこうという大変ユニークな企画です。
京都四條南座
いざ南座へ。
我が家からはそぞろ歩きの散歩道を鴨川べりまで来ると、深緑のしだれ柳の向こうに南座が見えてきます。
見上げると『毎日 寅さん』の看板、心がはやります。


陽射しの強い日、東京に比べて京都は、10代の女性まで、日傘をさしている方が圧倒的に多い気がします。

『山田洋次の軌跡~フィルムよさらば~』の看板が大きく掲げられています。
年末恒例の顔見世興行などでは、一等席チケットは25000円位、ともかく中に入ろうと最末席を選んでも5000円以上はかかってしまいますが、今回の入館料は500円、何だか嬉しいですよね。
入館料と午前・午後の映画観賞券、映画セットの体験料、ミニシネマ二本分、全部のイベントがフリーパスの1700円ワンデイチケットを購入してみました。
でも、チケット売り場にはもっとすごいものが。
『全期間フリーパスポート』というものが限定で売り出されているようで、二か月間毎日通って、午前・午後に上映される80本の映画を全部観ることができるチケットで・・・・48000円、限定35名とありました。

工夫を凝らした展示コーナーが様々にしつらえられた中、階段の踊り場や廊下の途中、ロビーの片隅、いたるところに革張りのこんな大きな椅子が何気なく置かれてありました。 年季が入って風格充分です。
取りあえず11時からの映画を客席で観賞することにしました。

やはり伝統ある南座、席に着くだけで気持ちが華やいでくる気がします。後ろを振り返ると、3階席までぼんぼりが美しく飾られていました。
35ミリフィルムの音
寅さん、『男はつらいよ』は全作48作品に及びますが、これはシリーズ物では全世界の映画史上最多で、ギネスに登録されているのだそうです。
午前中に毎日、『男はつらいよ』の1話から48話まで一作ずつ上映し、午後は監督の他の映画を・・・という企画になっています。
そういえば、昔、<お正月は寅さん映画で>という時代がありましたよね。 私は、映画館にはそれほど通いませんでしたが、でもその後テレビで何回も放映されていますから、シリーズの大半は観ています。
でも、今、南座で改めて寅さんとは。

・・・・・格調高く古色蒼然とした客席と、上映前のワクワク感が何とも言えずノスタルジックな気がしました。
平日の午前中だったせいか、客席は中高年のご夫婦が多かったです。
劇場ですので、映画館お約束のポップコーンとコーラの持ち込みもなく、前の席のおばあちゃまに至っては、やおら袋の中からタッパに入ったゆで卵を出し始めたりして、何だかのどかでした。
上映直前に、会場内にこんな内容のアナウンスが流れました。
「最近はデジタル化が進んで、映画もコンピューター管理になっていますが、本日の上映は昔ながらの35ミリフィルムの映写でお楽しみいただきます。映画が始まる前にカタカタという音が聞こえるかと思いますが、これは映画フィルムが回り始める時の音です。皆様がこの音をお聴きになるのもおそらくこれが最後のチャンスかと思われますので、このフィルムの音も併せてお楽しみください」
というような説明でした。
客席は瞬間、水を打ったような沈黙に包まれて、確かにかすかにカタカタという音とともに映画が映し出されました。上演中フィルムの回る音と映写室からのチラチラ光る光の帯がスクリーンにまで伸びていて、これも忘れていた映画館との再会でした。
この説明は、山田監督が特別に指示なさったものなのだそうです。
まさに「フィルムよさらば」・・・・フィルム独特の味わいを楽しんで、いつまでも心に留めてほしいという、今回の企画の意図と合致するのですね。
この日は、午前が『寅次郎ハイビスカスの花』(マドンナは浅丘ルリ子)、午後が『幸せの黄色いハンカチ』(高倉健主演)で、両方ともよく知っている映画、共に昭和50年代制作の時代背景、人物たちで <三丁目の夕日>みたいな懐かしさはあるのですが、でも笑えるところでは大いに笑え、しみじみするところではちゃんと胸に詰まり、客席中がほんわりとした和やかな雰囲気に包まれていて何とも心地良い時間でした。
ムヴィオラの風格
これまでの様々な映画紹介のパネルなどに混ざって、映画フィルムそのものの展示も沢山ありました。

という山田監督の言がパンフレットに載っていましたが、この言葉は、演劇・音楽・美術等の芸術全般においても、同様に当てはまるのではないかと・・・・。
アナログの味わいやこだわり、風格、創造性というものが、デジタル化によって貧相に痩せ細ってきてしまう文化的危機を警告した言葉でもあるのではと感じました。
それは更に言えば、山田監督自身の映画の世界、・・・・家族や友人や普通の人間同志の触れ合い、交流、失いたくない大切な心を見つめて愛おしむような共通する眼差しに繋がっているのかもしれません。

「ムヴィオラ」とは、映画フィルムの編集の際にフィルムの画像を見る装置で、フィルムとテープをセットして画像を確認しながらカットする箇所を探してゆく、編集技能と監督の意思とが一体となった難しい作業であるということです。
映画作りを担っている技術者の困難でもやりがいのある醍醐味だったのでしょうね。
その他、「男はつらいよ」に関する様々な展示やイベントも豊富にあり、こちらもとても興味深かったです。
でも、長くなりますので、今日はここまでとして。
次回の記事で続きをご紹介いたしますので、どうぞ引き続きお読み下さいね。


