
京都も梅雨入りとなりましたが、水無月のしっとりとした長雨ではなく、叩きつける暴雨、一昨日も稲光と共にあまりにも雨音が凄くて、雹(ひょう)でも落ちてきたかと思わず空を見上げてしまいました。
今日は、一転して強い日差しで、誰でも感じているのでしょうけれど、温暖な筈の日本の気候はこのまま加速度を増して変わってゆくのでしょうか?
咲き始めた紫陽花が、何だか場違いで、気の毒な気がしてきます。
ともかくも元気でこの季節を乗り切らねばなりませんね。
さて、今日は街で見かけた小さな情景、わざわざお話しする程の出来事ではないのですが、こんな話題もたまには良いのではと・・・お付き合い下さい。
或るフランス人夫婦のお話
今日午前中、京都四条通りにある銀行に、用事があり出掛けました。
街の中心街ですので、連日慌ただしい活気に満ちています。
順番待ちのソファーはいつも一杯で、今日もとても混んでいたのですが、その中に一組のカップルが座って番を待っているのが目に入りました。
遠目から一瞬にして、彼らはフランス人であると確信し、的中!
フランス語を学び、シャンソンに関わるようになってから、自然とフランス人の友人も出来、彼らと接する機会も増えたためなのか、はたまた、五感が妙に敏感すぎるせいなのか、私には、一目でほぼ100%正確に、欧米人の中からフランス人を見分ける能力があるらしいのです。
私たち日本人は、アジア系の人を見ると、その人が日本人かどうか、言葉を聞かなくても何となくわかってしまうものですが、それと同様に、フランス人の顔つき、骨格とか目の動き、表情、そして所作、手の置き方とか、首の動かし方とか、呼吸の仕方とか、そんな、そこはかとなく醸し出されるフランス人オーラを敏感にキャッチできてしまう特技が身についてきたようです。
50代半ばくらいのフランス人のこのご夫婦の、斜め後ろの席に座って、私も順番待ちをしていました。
彼らは、かなり目立つカップルで、男性は知的な雰囲気で、映画スターの何人かを合体したような眉目秀麗と言ってよいダンディーな紳士でした。
女性は無造作に大きく結い上げた栗色の髪が美しい、くっきりとした顔立ちの華やかなマダム、結構大きな声で話していたのは勿論フランス語です。
銀行は20人待ち位の状況で、順番を呼ばれるまでの時間、とても暇でしたので、聞き耳を立てていたわけでは決してないのですが、自然とその話し声が聴こえてきてしまいました。
音楽のように流暢に流れる優雅なフランス語・・・と最初は思ったのですが、少し気取った柔らかい話し方の割には、きつい言葉が畳みかけられていて、どうせ周囲にはわかるまいという油断があるのか、人眼も憚らず、二人は喧嘩をしていたのです。
プライバシーに抵触するかもしれませんが、それこそ、どうせ彼らの知る由もないでしょうから、問題ない範囲でご紹介してしまいましょう。
原因は、どうやらお金のことで、奥様の出金の所在を追及しているようなのです。
<夫>「今朝、通帳を確かめたら、いつの間にか不明の出金と振込履歴があるが、一体これはどうしたことか?」
「自分に内緒で勝手に何に使ったのか?」
<妻>「××は○○さんのバースディープレゼント、△△はお母さんに送ったお金よ。前に貴方にもお話ししたでしょう?忘れたの?」
<夫>「聞いてないよ。」
「それにこんな高額!それだけじゃないはずだ。」
<妻>「私だって、何かと物入りだし、お洒落もしたいんだから。
いちいち、貴方に咎められたくないわ。それくらいわかるでしょう?」
<夫>「これまで自分たちは全部相談しながらやってきたんじゃないか。そんな経済観念のないことではこれから困るよ。」
<妻>「わかってるけど、これくらいは私の裁量の範囲内だと思うから、そこまで言われるのは心外だわ。」
おおっと!!
こんな調子でヒートアップしてゆき、他人の私がこれ以上聞いてはいけないのではと思うほどでした。
ただ、興味深いことに、かなりシニカルな攻勢をお互いに浴びせかけているのに、それぞれが、言葉の繋ぎにジョークを散りばめていて、そういうジョークには相手も笑顔のジョークで応戦しつつ、また再び辛辣な舌戦へと突入してゆきます。 はたから見ていると和やかな会話なのか、そうでもないのか測りがたい雰囲気で、煙に巻かれる感じです。
フランス人の夫婦喧嘩ってこんななのだろうか?と何だか感心してしまいました。
フランスでは、夫が財産管理をしている場合が圧倒的に多くて、フランス人の男性はお金にとてもシビアなのだと聞いていましたが、この二人についてもこれは当てはまりそうです。
そしてマダムは会話の合間にcalme(カルム)という言葉を連呼していました。
“on se calme ” “calme –toi” とか。
「落ち着いて」、「冷静になってよ」、「静かに」という意味です。
「ここは外なんだから静かにしましょう」、「もっと小さな声でね」とご主人をいさめる言葉が頻出していました。
どうやら、マダムは劣勢のようで、時々ふうっとためいきを漏らすのですが、そうしているうちに、聞き取れないほどのかすかな声で、信じられない言葉を漏らしました。
「静かにして言うとるやんか。」
という日本語が私の耳には確かに聞こえました。
そしてすぐ何事もなかったかのように、流れるようなフランス語が続いて・・・・。
マダムの中で、何かが切れてしまったのか、この後から、フランス語が2~3フレーズ続くと、その合間に日本語がぼそっと入るという繰り返し。
「・・・・ on se calme わからん人やね。」
「・・・・・・・・・ うるそうてかなんわ。」
ご主人は日本語はわからないらしく、マダムの日本語での悪態口はただのため息にしか聞こえていないようで、二人はフランス語での会話を平然と続けるのです。
この二人、日本に長く住んでいるのでしょうか?マダムはどこでこの巧みな関西弁を習得したのでしょう?
マダムにとってこのように日本語を話すことにどんな意味があるのでしょう?
・・・実に面白い場面に遭遇してしまいました。
マダムの日本語は囁くように発せられるので、周りの日本の人たちは、よもやそんな日本語が、このフランス人の女性によって呟かれているとは誰も気付かなかったのではと思います。
私は息が止まるほどびっくりし、笑い転げたいのを必死で我慢して、テンション上がりっぱなしのひと時でした。
織田作之助の『夫婦善哉』という小説をお読みになったことがありますか?
大阪を舞台にして、蝶子という元芸者の女性と、放蕩者の若旦那柳吉が駆け落ちをしてドタバタしながらの絶妙な夫婦模様を繰り広げるお話なのですが、なぜか、あの小説が浮かんできてしまいました。
マダムは、素知らぬ顔をしながら、時々コテコテの関西弁でご主人に悪態口をつき、自らガス抜きをしながら、あの華のような笑みを浮かべて過ごしてゆくのでしょう。
これも夫婦の妙、奥は深いです。
船上のウエディングパーティー
さて、気分を変えて、若いカップルの素敵な門出のお話をして、締めくくりたいと思います。
少し前、5月の中旬のことになりますが、私の教え子、ご卒業後もずっと親しくお付き合いしてきたYさんがご結婚なさいました。
挙式はハワイで、そして披露パーティーは東京湾クルーズ、日の出埠頭から出発する「シンフォニー」という豪華客船での披露宴でした。
ハワイでの挙式のお写真も沢山見せていただきましたが、真っ青な空と海、光一杯に包まれたYさんの笑顔は本当に美しく、清らかに輝いていました。
ハワイでの佳き日を彷彿とさせる、素晴らしい五月の青空と海に、一点の陰りもない素敵なお二人、心のこもった忘れ難い船上のパーティーとなりました。
Yさんは、中学生の頃からとても理知的で謙虚な、でも自分をしっかりと持っていらした方、教養が深い分、控え目になって、こんな世の中では損したりしないかなと、親心としては心配になることもあったのですが、そうやって培ってきたピュアなものが、この日に集約されて匂い立つような美しさでした。
お相手の方は、とても爽やかで品格に満ちた好青年、これから一歩ずつお二人での素敵な時間を刻んでいらっしゃるのですね。
写真はウエディングケーキカット。ケーキが客船の形をしていて心弾みます。
Yさんは、私のコンサートスタッフとしていつも力を貸して下さっている方です。彼女の<一番好きな曲!>『愛の約束』をお祝いに歌わせて頂きました。
胸が一杯になって、ステージで歌う時とは勝手が違いましたが、私の心尽くしの『愛の約束』、受け取って頂けましたか。
愛は全て 共に手を取り
信じ合って 今を輝かせ 約束の世界に生きよう
お幸せを心からお祈りしています。
今日は、一転して強い日差しで、誰でも感じているのでしょうけれど、温暖な筈の日本の気候はこのまま加速度を増して変わってゆくのでしょうか?
咲き始めた紫陽花が、何だか場違いで、気の毒な気がしてきます。
ともかくも元気でこの季節を乗り切らねばなりませんね。
さて、今日は街で見かけた小さな情景、わざわざお話しする程の出来事ではないのですが、こんな話題もたまには良いのではと・・・お付き合い下さい。
或るフランス人夫婦のお話
今日午前中、京都四条通りにある銀行に、用事があり出掛けました。
街の中心街ですので、連日慌ただしい活気に満ちています。
順番待ちのソファーはいつも一杯で、今日もとても混んでいたのですが、その中に一組のカップルが座って番を待っているのが目に入りました。
遠目から一瞬にして、彼らはフランス人であると確信し、的中!
フランス語を学び、シャンソンに関わるようになってから、自然とフランス人の友人も出来、彼らと接する機会も増えたためなのか、はたまた、五感が妙に敏感すぎるせいなのか、私には、一目でほぼ100%正確に、欧米人の中からフランス人を見分ける能力があるらしいのです。
私たち日本人は、アジア系の人を見ると、その人が日本人かどうか、言葉を聞かなくても何となくわかってしまうものですが、それと同様に、フランス人の顔つき、骨格とか目の動き、表情、そして所作、手の置き方とか、首の動かし方とか、呼吸の仕方とか、そんな、そこはかとなく醸し出されるフランス人オーラを敏感にキャッチできてしまう特技が身についてきたようです。
50代半ばくらいのフランス人のこのご夫婦の、斜め後ろの席に座って、私も順番待ちをしていました。
彼らは、かなり目立つカップルで、男性は知的な雰囲気で、映画スターの何人かを合体したような眉目秀麗と言ってよいダンディーな紳士でした。
女性は無造作に大きく結い上げた栗色の髪が美しい、くっきりとした顔立ちの華やかなマダム、結構大きな声で話していたのは勿論フランス語です。
銀行は20人待ち位の状況で、順番を呼ばれるまでの時間、とても暇でしたので、聞き耳を立てていたわけでは決してないのですが、自然とその話し声が聴こえてきてしまいました。
音楽のように流暢に流れる優雅なフランス語・・・と最初は思ったのですが、少し気取った柔らかい話し方の割には、きつい言葉が畳みかけられていて、どうせ周囲にはわかるまいという油断があるのか、人眼も憚らず、二人は喧嘩をしていたのです。
プライバシーに抵触するかもしれませんが、それこそ、どうせ彼らの知る由もないでしょうから、問題ない範囲でご紹介してしまいましょう。
原因は、どうやらお金のことで、奥様の出金の所在を追及しているようなのです。
<夫>「今朝、通帳を確かめたら、いつの間にか不明の出金と振込履歴があるが、一体これはどうしたことか?」
「自分に内緒で勝手に何に使ったのか?」
<妻>「××は○○さんのバースディープレゼント、△△はお母さんに送ったお金よ。前に貴方にもお話ししたでしょう?忘れたの?」
<夫>「聞いてないよ。」
「それにこんな高額!それだけじゃないはずだ。」
<妻>「私だって、何かと物入りだし、お洒落もしたいんだから。
いちいち、貴方に咎められたくないわ。それくらいわかるでしょう?」
<夫>「これまで自分たちは全部相談しながらやってきたんじゃないか。そんな経済観念のないことではこれから困るよ。」
<妻>「わかってるけど、これくらいは私の裁量の範囲内だと思うから、そこまで言われるのは心外だわ。」
おおっと!!
こんな調子でヒートアップしてゆき、他人の私がこれ以上聞いてはいけないのではと思うほどでした。
ただ、興味深いことに、かなりシニカルな攻勢をお互いに浴びせかけているのに、それぞれが、言葉の繋ぎにジョークを散りばめていて、そういうジョークには相手も笑顔のジョークで応戦しつつ、また再び辛辣な舌戦へと突入してゆきます。 はたから見ていると和やかな会話なのか、そうでもないのか測りがたい雰囲気で、煙に巻かれる感じです。
フランス人の夫婦喧嘩ってこんななのだろうか?と何だか感心してしまいました。
フランスでは、夫が財産管理をしている場合が圧倒的に多くて、フランス人の男性はお金にとてもシビアなのだと聞いていましたが、この二人についてもこれは当てはまりそうです。
そしてマダムは会話の合間にcalme(カルム)という言葉を連呼していました。
“on se calme ” “calme –toi” とか。
「落ち着いて」、「冷静になってよ」、「静かに」という意味です。
「ここは外なんだから静かにしましょう」、「もっと小さな声でね」とご主人をいさめる言葉が頻出していました。
どうやら、マダムは劣勢のようで、時々ふうっとためいきを漏らすのですが、そうしているうちに、聞き取れないほどのかすかな声で、信じられない言葉を漏らしました。
「静かにして言うとるやんか。」
という日本語が私の耳には確かに聞こえました。
そしてすぐ何事もなかったかのように、流れるようなフランス語が続いて・・・・。
マダムの中で、何かが切れてしまったのか、この後から、フランス語が2~3フレーズ続くと、その合間に日本語がぼそっと入るという繰り返し。
「・・・・ on se calme わからん人やね。」
「・・・・・・・・・ うるそうてかなんわ。」
ご主人は日本語はわからないらしく、マダムの日本語での悪態口はただのため息にしか聞こえていないようで、二人はフランス語での会話を平然と続けるのです。
この二人、日本に長く住んでいるのでしょうか?マダムはどこでこの巧みな関西弁を習得したのでしょう?
マダムにとってこのように日本語を話すことにどんな意味があるのでしょう?
・・・実に面白い場面に遭遇してしまいました。
マダムの日本語は囁くように発せられるので、周りの日本の人たちは、よもやそんな日本語が、このフランス人の女性によって呟かれているとは誰も気付かなかったのではと思います。
私は息が止まるほどびっくりし、笑い転げたいのを必死で我慢して、テンション上がりっぱなしのひと時でした。
織田作之助の『夫婦善哉』という小説をお読みになったことがありますか?
大阪を舞台にして、蝶子という元芸者の女性と、放蕩者の若旦那柳吉が駆け落ちをしてドタバタしながらの絶妙な夫婦模様を繰り広げるお話なのですが、なぜか、あの小説が浮かんできてしまいました。
マダムは、素知らぬ顔をしながら、時々コテコテの関西弁でご主人に悪態口をつき、自らガス抜きをしながら、あの華のような笑みを浮かべて過ごしてゆくのでしょう。
これも夫婦の妙、奥は深いです。
船上のウエディングパーティー
さて、気分を変えて、若いカップルの素敵な門出のお話をして、締めくくりたいと思います。
少し前、5月の中旬のことになりますが、私の教え子、ご卒業後もずっと親しくお付き合いしてきたYさんがご結婚なさいました。

挙式はハワイで、そして披露パーティーは東京湾クルーズ、日の出埠頭から出発する「シンフォニー」という豪華客船での披露宴でした。

ハワイでの挙式のお写真も沢山見せていただきましたが、真っ青な空と海、光一杯に包まれたYさんの笑顔は本当に美しく、清らかに輝いていました。
ハワイでの佳き日を彷彿とさせる、素晴らしい五月の青空と海に、一点の陰りもない素敵なお二人、心のこもった忘れ難い船上のパーティーとなりました。


Yさんは、中学生の頃からとても理知的で謙虚な、でも自分をしっかりと持っていらした方、教養が深い分、控え目になって、こんな世の中では損したりしないかなと、親心としては心配になることもあったのですが、そうやって培ってきたピュアなものが、この日に集約されて匂い立つような美しさでした。
お相手の方は、とても爽やかで品格に満ちた好青年、これから一歩ずつお二人での素敵な時間を刻んでいらっしゃるのですね。

写真はウエディングケーキカット。ケーキが客船の形をしていて心弾みます。
Yさんは、私のコンサートスタッフとしていつも力を貸して下さっている方です。彼女の<一番好きな曲!>『愛の約束』をお祝いに歌わせて頂きました。
胸が一杯になって、ステージで歌う時とは勝手が違いましたが、私の心尽くしの『愛の約束』、受け取って頂けましたか。
愛は全て 共に手を取り
信じ合って 今を輝かせ 約束の世界に生きよう
お幸せを心からお祈りしています。


