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新しいシャンソンを新しい言葉に乗せて

   シャンソンの訳詞のつれづれに                      ~ 松峰綾音のオフィシャルブログへようこそ ~

* 「ロボットミューラとマーガレット」 その二

エッフェル塔
 6月になりました。紫陽花が雨に映える季節ですね。
 
 さて、早速、前回の記事
「ロボットミューラとマーガレット」その一 訳詞への思い<4> の続きに入りましょう。今日は、原曲のご紹介をしたいと思います。


      ロボットミューラとマーガレット」その二 
                          訳詞への思い<4>


  le robot et la marguerite
 「ロボットミューラとマーガレット」という訳詞についての説明に入る前に、まず、この原曲のことから。
 原曲は「le robot et la margurite」(ロボットとマーガレット)であり、既に述べた通り、これは、シャーロット・ランプリングのアルバム『comme une femme』に収められている曲である。


 「le robot et la marguerite」は、次のような歌詞から、始まる。

  un robot électroniqu’ magnétique, informatique
  aspirait, lavait, brossait   epluchait, tricotait, rasait
  faisait les lits, le courrier   coupait les frit’s, berçait bébé
  préparait l’eau pour le bain et donnait la pâtée au chien
 
  (電子のロボット 磁気の コンピューターの
   掃除機をかけ 洗濯をし ブラッシングをし
   皮をむき 編み物をし 髭そりをし 
   ベッドメイク 手紙 フライのカット 赤ちゃんの世話
   お風呂の用意 犬に餌もやった)

 ざっと対訳すると上記のような意味なのだが、コンピューターで制御されたこのロボットは、家事全般がかなり得意なようだ。
 そして、フランス語部分を目で追ってみてもすぐわかるように、音韻が綺麗に揃えてあって、軽快なリズムに合わせてフランス語の発声が規則的に響き、まさにロボットが休むことなく働き続けていく、勤勉な様子が感じられる。
 アンニュイなハスキーボイスのランプリングが、この歌だけは、可愛い声でお茶目に歌っていて・・・・歌おうとしていて、そのアンバランスな感じが、却って大人のメルヘン、という雰囲気を醸し出していて、聴いているとなかなか微笑ましく楽しい。
 
 そして、曲は続き、物語が展開してゆく。

 ロボットは油さえさせば、インフルエンザにも罹らず、心痛めることも、考えることもない。 自覚していたわけではないが、幸せに生きていた。
 でもある日、一輪のマーガレットが彼の平和な生活に混乱をもたらした。
 特に何をしたわけでもなく、良い香りを放った、ただそれだけなのだが。
 「花なんか何の役に立つのだろう?」とロボットは自問して、それを解決するために金属アームを動かして、花弁を一枚引き抜き、自分のらせん状の器官の中に押し込んだ。

 ・・・・さて、ここからロボットに異変が起こるのだが。

 ロボットはぼんやりとして、今までのように有能に仕事をこなせなくなる。
へまばかりして、更にマーガレットの花弁を全部食べてしまい、ついには故障して倒れ動かなくなる。 恋に死んだということを自分では知らずに。

 ・・・・大雑把な説明だが、このような内容の歌なのだ。
 わかるようで結構謎。 可愛いようで結構シュール。シャンソンぽい洒脱な味わいを感じる。

 もう少し具体的に見ながら、いくつかの興味深い点を取り上げてみたい。


 まず、ロボットが壊れてゆく場面の描写から。
 
  Adieu le travail bien fait   il enclenchait, d’un air distrait
  faisait bouillir le courrier   ou bien il épluchait bébé

  (よくできる仕事にさよなら  ぼんやりした様子で動き始める
   手紙を煮込んでしまう  赤ちゃんの皮をむく )

 ロボットが壊れ始めたのはわかるけれど、かなり怖い。
 何気なく歌っているけど、「本当は怖いグリム童話」みたいにゾゾ~と背筋が寒くなる。冒頭のepluchaint(皮をむく)はたぶんフライドポテト用のジャガイモの皮むきなのだろうけれど、なにもこれをbébé(赤ちゃん)と組み合わせなくても・・・こう言っては偏見かもしれないが、・・・・フランスぽいと思ってしまう。


 二つ目の注目点。
 ロボットがマーガレットの花弁を全部食べてしまう場面で、
歌詞に、「彼は“passoionnément”と言い 突然故障して倒れた」というフレーズが出てくるのだが、“passoionnément”は「情熱的に・熱烈に」という意味であり、ではどういうことなのか? 解釈上ここにも一つ、謎がある。 
 ・・・・これはおそらく、“effeuiller la marguerite”、(花占い)のことではないかと思われるのだが。
マーガレット マーガレットは恋占いの花・・・マーガレットの花言葉もまさに「恋占い」なのだが、花弁を一枚ずつ、ちぎりながら「好き」「嫌い」・・・と占っていくあの占いのことだ。
 「好き」か「嫌い」か、意中の人の思いを知りたくて花にまですがってしまう、この占いは多くの国にあるようで、全世界、切ない恋心は共通なのだろう。
 「好き」か「嫌い」かの二者択一に決まっているようなものだが、実はフランスの花占いは少し異なっていて、5段階に細分化されていることをご存知だろうか。

     il m’aime (彼は私を愛している)  
 と、まず、唱えた上で花びらを一枚ずつちぎり始める

     un peu(少しだけ)
     beaucoup(とても)        
     passionnément (熱烈に)
     à la folie( 気も狂わんばかり)   
     par du tout (全然)

 これを繰り返し唱えながら花弁をちぎってゆくのだそうだ。
 よく考えると、この場合、「嫌い」の確率は5分の1なわけで、あとは「好き」の程度を計っているだけなので、賭けとしてはちょっとズルい。
 丁か半か、二つに一つの我が日本の方が潔い気がしてしまうけれど、(ちなみにドイツも二者択一だそうで、この点における同盟国である)、フランス流には、「好きに決まってる!・・・どれくらい好きかを知りたいのだ」という切実さ、更なる欲張りな探究心みたいなものも感じる。
 でもその分、お正月のおみくじと同じくらいの確率で、末吉 吉 小吉 中吉 大吉 とチョイスがやはり5種類もある中で、凶を引き当ててしまった時のショックは却って大きいかも・・・などとつまらないことを考えてしまった。

 ちなみに、il m’aime (彼は私を愛している)という言葉から、花びらをちぎり始める流儀もあるようで、こちらだと、片思いである確率は6分1に縮まってくる。
 さらに付け加えると、il m’aime(彼は私を愛している)の代わりにje t’aime(私はあなたを愛している)と言う場合もあるらしい。こうなると自分の心模様を確かめようとする、恋は自らの心まで計れなくするものだ・・・というようななかなか詩的、且つ、心理学的な境地に入ってくるかと、益々面白く感じられてくる。

 ・・・・もうおわかりのように、ロボットは花占いをしていて、passionnément(熱烈に)と唱えたところで力尽きたという推理である。
 par du tout(全然)ではなくて良かった!!


 さて、三つ目の注目点。
 この曲の歌詞の最後の、動かなくなるところのフレーズにすべての答えが隠されているわけなのだが。

 歌詞の最終行は“Sans savoir qu’il mourait d’amour・・・・”である。

 これは、「彼は恋に死んだということを知らないで・・・・」という意味なのだが、ということは、ロボットは、花びらを飲み込んだ時の自分の気持には全く気付いておらず、でも実は、それはマーガレットに恋をしていたのであり、ロボットが恋をしてしまった時、それはロボットとして生きられなくなる時、つまり破壊する時を意味していたことになる。
 先日来、「ロボット考」の中で書いてきたアトムやナイトと一脈繋がるものを感じてしまうのだが。

 
 さて、いよいよ訳詞の紹介ですが、長くなりましたので、肝心なところを残して、今日はここまで。 
 次回に続きますので、一息入れて、しばしお待ち下さい。

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