
さて、今日も素敵な方、そして素敵な絵画との出会いをご紹介したいと思います。
かこさとしさん。
今年85歳になられるそうですが、最初の執筆から50年余、一貫して絵本作家、児童文学者として、独創的で魅力的な作品を創作し続けていらっしゃって、実は私、ずっと前から隠れファンだったのです。
7月16日から9月25日まで、鎌倉市長谷にある鎌倉文学館で、『子供たちへ、未来へシリーズ1 特別展 かこさとしの世界』が開催されています。終了間近になってしまった昨日、ようやく足を運ぶことが出来ました。
昨日は、午後から関東地方台風直撃ということで、警報がどっさり発令されている中、でも朝は、まさに嵐の前の・・・で、変に青空まで広がって・・・・開館9時を目指していざ鎌倉へ。

以前は、二両編成のトコトコ電車だったのに、いつの間にか立派な車両の四両連結になっていて、・・・隔世の感がありました。でも街中を走るあののどかさは健在で。由比ヶ浜駅下車。
6~7分、山側のなだらかな坂道を上ってゆくと、閑静な佇まいの鎌倉文学館が見えてきます。旧前田侯爵家別邸だった文化財にもなっている素敵な建物で、鹿鳴館の世界に迷い込んだような風雅な空気に包まれます。
普段も鎌倉ゆかりの文学者たちの常設展が置かれ、これだけでもしっとりと味わえ、かなり興味深いのですが、今日は入口までのアプローチにも小さな子供の夢が膨らみそうな可愛い彩りに満ちていました。


絵本の草稿、精密なデッサン、美しい原画、どれも皆素敵で、すべてを写真に収めたくなったのですが、館内は当然のことながら撮影禁止でしたから、その印象を言葉でお伝えすることしかできません。それでも、言は意を尽くさず
百聞は一見 ですので、ご興味のある方は是非訪れて、直接味わってみて下さいね。ただし、25日までですので、お急ぎを。

これが今回のリーフレットです。
地球の上に、かこさんの童話のキャラクターたちが楽しそうに集っていて、「おはなし かがく あそび」という言葉がそれを包んでいます。
今回の展示は、「おはなしの部屋」「かがくの部屋」「あそびの部屋」の3室に分かれています。
「おはなしの部屋」の入り口に、子供たちに向けた、かこさんのメッセージが次のように記されていました。
まさにこの特別展への思いそのものなのでしょう。それぞれの展示物にとても丁寧に、子供にもわかる言葉で、説明を書いていらっしゃって温かさが伝わってきます。
子どもたちへのメッセージ
これからの未来をおしすすめ
もっとよい世界にするため
科学や学問を身につけ
ちがった意見をよくきき
考えをふかめて実行する
かしこい人にみんななってほしいと願っています
そして 自分のくせや体力に合ったやり方や練習法をみつけて
自分できたえて
たくましくてしなやかな能力と
すこやかな心をそなえた人になるよう努力してください
かこさとし
「おはなしの部屋」
絵本作家であり児童文学者であるかこさんの本領を発揮する、ウィットに富んだ可愛い絵本が、原画、物語、創作のプロセス、秘話などと共に、沢山紹介されていて、すっかり童心に戻って楽しんでしまいました。
それにしても、不思議なのですが、一冊の絵本という印刷物で見るのと、じかに描かれた草稿を見るのとでは感動がひと味違うように感じるのはなぜなのでしょう?
肉筆の力なのでしょうか。書かれている紙、絵筆の線、絵具の色が浮き立つように直接迫ってきて、命がこめられているのだなあと。
言葉で表し難いのですが、創造するとはこういうことなのかもしれませんね。
どんなに細心に録音されたCDでも、臨場感とか空気の流れとかも含めて、ホールで聴く生の音には敵わないように、これは音楽にも似ている気がします。
飛躍してしまいますが。
シャンソンを歌っていると時々、言葉と音とで、それぞれの役割を担って成り立っているはずの歌が、あるときは音が言葉の領域に入り込んで雄弁に語り始めたり、反対に言葉が音を紡ぎだしたりすることを感じることがあるのですが、絵本の中の言葉と絵との関係にはそういうことはないのでしょうか?
かこさんにいつか伺ってみることができたら・・などと密かに思っています。
「かがくの部屋」
かこさんは工学博士でもいらして、絵本を通して科学の魅力を子供たちに伝えてゆきたいという思いを持って、科学絵本の分野にも大きく貢献してこられた方です。
子供の本と侮るなかれ、相当本格的な内容で、正確で専門的な知識をわかりやすく伝えてゆこうとする情熱が迫ってきて、本当に、もう一度襟を正して勉強し直したいという思いが起りますし、科学的な芽を育むための好奇心の引き出し方がすごいなと。きっとかこさんご自身、今も子どもの心を持っている方なのでしょうね。
『人間』、『ならの大仏さま』・・・推薦です。
そして、今年刊行された最新作の『万里の長城』も展示されていました。これは、つい最近、国際アンデルセン賞画家賞の日本代表にノミネートされたそうで、これから海外でどのような評価を受けるか注目されている作品です。
かこさんの解説には、この本は単に長城の大きさや古さを伝えることを目的としたものではなく、「特に多民族と共存して発展するにはどうしたらよいか、世界中の地域紛争の解決を示す雄大な実例として読んでいただくことを願って」まとめたものだとあり、歴史書、科学書を読むようなこの美しい労作のエネルギーの源は、このような強い思いの中にあるのだと、改めて感じ入ります。
「あそびの部屋」
工作、実験コーナーなど、子どもたちが喜びそうな工夫満載。
「だるまちゃん」や「からすのパンやさん」に扮装できる可愛いベストやマント、かぶり物なども沢山あって、子どもたちの喜ぶ声が聞こえてきそうでしたが、何しろ警報発令中でしたので、当然のことながら子どもの姿は一人もなく、だ~れもいないとっても静かな部屋でした。
ずっとお会いしていなかった懐かしい友人Mさんとの、文学館での再会も果たせました。
段々激しくなって叩きつけて来るような雨の音を聞きながら、人のいない文学館で、絵本に囲まれ、束の間の友との語らい、嵐の日の不思議で素敵な時間が心に刻まれています。
追加のお話

『絵本への道』を文学館で買い求めました。
かこさんへのインタビューを基に構成した本ですが、面白くて昨晩一気に読み上げました。長くなるので、ご紹介は割愛しますが、これもお薦めです。
・・午後早めに帰り着きましたので、帰宅難民にならずに済みました・・。


