

GW、如何お過ごしですか?
今日明日は上天気とのこと、新緑が眩しくて、この季節は光と風が体にも心にも沁み渡ってくる気がしますね。

5月は俄然アウトドア派になる私なのですが、この連休は珍しく自宅に陣取って、家の中に光と風を通しています。・・・・・所用の合間を縫いながら、しばらく放ったらかしだった家の片付けと大掃除・・・ご存じの通りの片付けフリークに今スイッチが入り、大騒ぎの真っ最中です。
さてそんな中、またまたお待たせいたしました、紋次郎物語 第三話をお読みいただこうかと思います。
その前に特記事項を。
* 今日の『~その三 母子の別れ~』 は、おそらくこのシリーズ(?!)最大の山場となるでしょう。
* そして<不思議満載>なのですが、神に誓って全て本当の事ですので、「うそだあ~~」などと、人を嘘つき呼ばわりすることなきよう、よろしくお願い致します。もしかしたら、こんな馬鹿げた話には付き合えないと呆れ果てる方も出てくるかもしれませんが、それは私も充分覚悟しています。
* その一 その二 からの続きですので、始めてお読みになる方や、もう忘れてしまわれた方は、こちらをクリックして復習してからお読み頂けるとよろしいかと。
~ その三 母子の別れ ~
猫達が忽然と姿を消し、1~2カ月が過ぎた頃だったでしょうか?
当時の我が家は、昔風の造りで、東側に向いて茶の間があり、ガラス戸を開けると、その向こうに縁側がありました。
その日は、家中の窓を大きく開け放って風を通し、庭に沢山干し物をしていた記憶がありますので、梅雨が明け初夏となった心地よい頃だったのではないかと思います。
お昼過ぎ、母の手伝いを終え、茶の間にゴロンと寛いでいたのですが、ふと、何か気配を感じて、目を上げると、庭の向こう側の真直ぐ奥に、久しぶりに見る母猫が端座していました。
何も言わず、瞬きもせず、ただ目を見開いて、足を揃えてとても綺麗な姿勢でずっと遠くから私の方を見ています。
私は、横になったまま猫から目をそらすことが出来なくなり、そのままじっとしていたのですが、そのうちいつの間にか、猫と同じような面持ちで正座していました。
長い時間だったのか、あっという間だったのかよくわかりません。
時が止まったような、不思議な沈黙が、私と猫との距離に流れていました。
猫の目はとても落ち着いていて全く揺らぎがなく穏やかに見えました。
しばらくそうしていて、突然、猫は真直ぐにこちらに近づいてきました。
すっ、すっと、真正面から目を合わせたまま、全くひるむことなくゆっくりと歩いてきたのです。
野良猫としての安全圏を保つ距離を、この母猫はこれまで侵すことは決してありませんでしたから、どんどん近づいてくる猫の姿は私には余りにも異様に思えましたし、猫がどうかしてしまったのか、ひょっとして突然凶暴になって襲われるのではないかという恐怖心がよぎったりもしました。
でも、静かなのに何だか抗いがたい迫力があって、後ずさりして逃げたくなる衝動を抑えながらただ息を飲むだけで動くことも出来ませんでした。
猫は近づいてきて、縁側に静かに飛び乗り、そこで止まって、またじっと私の方を真直ぐに見つめていました。
茶の間に茫然と座っている私と、縁側に端座する猫。
見つめ合って、手を伸ばせば届くような距離です。
それから、猫は突然、ニャア~ニャア~と割と細く尾を引くような鳴き声でずっと鳴き続けました。
今まで経験したことのない不思議な光景でした。
10分、20分、その声はいつまでも止むことなく続いて、それを聴きながら、私は段々、奇妙な感覚になってきて、・・・・ここからは勝手な思い込みかもしれないのですが、母猫が明らかに何かを訴えていると確信していました。
なぜそう思ったか、不思議なのですが、あの時、母猫は子猫たちのことを託しに来たのだと、今でも私は信じています。
よく見ると、毛並みも色褪せて随分みすぼらしくなっていて、前よりずっとやせ細って衰えているのがわかりました。そのうちに声を嗄らし始めてきてそれでも鳴くのを止めません。病んだ最期の力を振り絞っているかのようにも思われてどこか不憫でなりませんでした。
気が付くと、二階で仕事をしていた母が降りてきて、この異様な光景を一緒に見守っていました。
しばらく二人共黙って、殆ど同時に、「子猫のことを頼んでいるに違いない」とぽつりと言い合いました。
「これは引き受けてあげないと・・・」
「仕方ないわね」と母も。
・・・・気が触れたと思わないで、もう少し読んで下さいね。
「もうわかったから。もう鳴かなくて良いから。子猫は何とかしてあげるから。」と、猫に数回話しかけていました。
猫は鳴き止み、そして驚くべきことに、茶の間にいる私と母のすぐ目の前にすっとやってきました。この猫が家の中に入ったのは、勿論これが初めてのこと、そしてころっとひっくり返ってお腹をみせたまま動かず、ゴロゴロと喉を鳴らし始めたのです。
飼い猫なら嬉しい時によくするポーズでしょうが、野良猫として生きてきたこの猫にはあるまじきことですよね。
「よしよしわかったから・・・大丈夫だから安心して・・・」などとまた言って、猫の頭とお腹を思わず撫でたのですが、猫は黙ってしばらくされるがままになっていました。
やがて、起き上がり、そしてまたしばらく鳴いて、今度は背中を向けて真直ぐ振り返らず去ってゆきました。
私がこの母猫を見たのはこれが最後です。
翌日、申し合わせたように子猫たちが、我が家の庭に姿を見せました。
四匹いたはずの子猫は、三匹になっていて、彼らを守ってくれていた母猫はもういません。
どう思われますか?
一緒にこの顛末を見届けた母とは今でも時々この不思議な話をし合います。
弟はこの情景を見ることが出来なかったことをとても残念がっていますし、父も今度は「約束したなら仕方がない」といくつかの条件付きで世話をすることを許してくれました。・・・
家族のこういう理解のもとに、子猫たちとの新しい生活が始まることになったのです。
これは、とても変な話と思われるかもしれませんが、本当に私自身で体験したことなのです。
そして私はこの母猫に、とても不思議な感動と親愛の情を今でも感じています。
紋次郎物語は、まだ続いてゆくのですが、第三話「母子の別れ」はこれにて完とさせて頂きます。


